失楽園 28
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緒方はどういうつもりでこんな話を始めたのだろう。アキラをオモチャ代わりにしていたとでも
言うのだろうか。
もし、そうなら――理不尽だ。
ヒカルの脳裏に浮かんだのはその言葉だった。
緒方のそれは、完全な独りよがりであり、醜いエゴイズムでしかない。相手の…塔矢の気持ちは
どうなるのだ。幼い頃から家族のように慕っていただろう相手に犯されたアキラの心は。
「そんなの、理不尽だろ」
搾り出すように呟いたヒカルを一瞬驚いたような表情で見つめると、緒方はテーブルに放って
あったBOXを手に取った。ヒカルがかつてアキラの部屋でも見かけた、あの赤い箱。
「――ま、確かに理不尽は理不尽だろうな。流石に塔矢先生に知られたら、オレはこの世界では
いけないだろうから」
何がおかしいのか、緒方は片頬を歪めて笑う。
「理不尽なら理不尽でも構わん。オレはオレのやりたいようにやるだけだ。そして、アキラくん
だってアキラくんのしたいようにするだろう。…オマエと寝たようにな」
箱から一本の煙草を取り出すと、緒方は流れるような所作で火を点けた。溜息とともに吐き出
されてくる紫煙を、ヒカルは手で払いのけずに直接肌で受けた。
緒方の言葉に、態度に、ヒカルは自分への限りない憎悪を感じる。ほんの数時間前は、ファー
ストフードの店でヒカルに対し多少なりとも友好的だった緒方だたが、それが緒方の本心でなかっ
たことくらい、ヒカルも気づいてはいた。しかし、これほどまでとは。
「……そんなに怒ってるのかよ」
「オマエをボロボロになるまで犯して、棋院の前で棄ててやろうと思うくらいにはな」
緒方の言っていることが、ハッタリや誇張ではないことをヒカルはもう疑っていない。アキラ
がこのマンションを訪ねてこなければ、恐らく自分は緒方の歪んだ怒りをこの身で受けるしか
なかっただろう。勿論、あらゆる抵抗の限りを尽くすつもりだが、緒方にそれが通用するとは思
えなかった。
「…こっちも飲むか?」
物騒なことを言ったことを後悔したのか、緒方の手が未開封のオレンジの瓶に伸びる。
パッケージを破こうとする指先を捉え、ヒカルは首を振った。
「塔矢に飲ませたくて買ったんだろ? 塔矢が来てからでいい」
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