初めての体験+Aside 28
(28)
魂が抜けたようにふらふらと帰る倉田を見送った後、再び棋譜研究を始めた。ふと、気がつくと
既に夜の九時をまわっていた。
「順番にお風呂に入ってそろそろ休もうか?」
アキラが提案した。彼は社に言った。
「社、入って。」
社は驚いた。アキラに風呂を勧められるとは…。だが、素直に喜べない。
―――――昔、テレビで一番風呂は身体に悪いゆうて聞いたことある…
外気の温度と浴室の温度の差がどーとかこーとかで、要するに浴室が暖まった二番目以降の
方がいいというのだ。コレが本当かどうかは知らないが、まさかそのために社を入れるの
では…と考えるのは疑いすぎだろうか?今は春だし、そんなことは関係なさそうだ。
「そうだな。社、大阪から来て疲れてるし…昨日徹夜だったもんな…お風呂に入って
ゆっくり疲れをとった方がいいよ。」
ヒカルがニコニコ笑って、アキラに賛成する。
―――――進藤、オレのことそんな思ってくれとるんか…
感激した。それに、“お”風呂…可愛い…。アキラもそう言っていたような気がするが
それは自分の聞き間違いだろう。
『まあ、ええわ…進藤のために風呂をめいっぱい暖めとこ…』
「わーでっかい風呂やなぁ…」
家もでかいが、風呂もでかい。自分の家の風呂と違って、手も足もゆったりと伸ばせる。
「これ…檜やろか…」
自分に木の種類などわからないが、何だかいい匂いがする。まるで旅館みたいだ。社は
湯の温かさと独特の木の匂いを楽しみながら、ヒカルと温泉に行ってみたいと思った。
|