初めての体験+Aside 28 - 29
(28)
魂が抜けたようにふらふらと帰る倉田を見送った後、再び棋譜研究を始めた。ふと、気がつくと
既に夜の九時をまわっていた。
「順番にお風呂に入ってそろそろ休もうか?」
アキラが提案した。彼は社に言った。
「社、入って。」
社は驚いた。アキラに風呂を勧められるとは…。だが、素直に喜べない。
―――――昔、テレビで一番風呂は身体に悪いゆうて聞いたことある…
外気の温度と浴室の温度の差がどーとかこーとかで、要するに浴室が暖まった二番目以降の
方がいいというのだ。コレが本当かどうかは知らないが、まさかそのために社を入れるの
では…と考えるのは疑いすぎだろうか?今は春だし、そんなことは関係なさそうだ。
「そうだな。社、大阪から来て疲れてるし…昨日徹夜だったもんな…お風呂に入って
ゆっくり疲れをとった方がいいよ。」
ヒカルがニコニコ笑って、アキラに賛成する。
―――――進藤、オレのことそんな思ってくれとるんか…
感激した。それに、“お”風呂…可愛い…。アキラもそう言っていたような気がするが
それは自分の聞き間違いだろう。
『まあ、ええわ…進藤のために風呂をめいっぱい暖めとこ…』
「わーでっかい風呂やなぁ…」
家もでかいが、風呂もでかい。自分の家の風呂と違って、手も足もゆったりと伸ばせる。
「これ…檜やろか…」
自分に木の種類などわからないが、何だかいい匂いがする。まるで旅館みたいだ。社は
湯の温かさと独特の木の匂いを楽しみながら、ヒカルと温泉に行ってみたいと思った。
(29)
風呂から上がって、部屋に戻った社を見て、
「もう出たんだ?ここの風呂でかいだろ?」
と、無邪気にヒカルは笑いかけた。
「じゃあ、ボク達も入ろうか。」
アキラは立ち上がって、狼狽えるヒカルを引っ張って行った。
「え……あの…塔矢…ちょっと…やだ…」
ヒカルの声は段々遠ざかって行った。
それが目的やったんか――――――――――――――――――――――――――!!!
社はガクリと膝をついた。今頃、風呂場ではどんなことが行われているのだろう…。
昨日、台所で見たような行為が行われているのだろうか?社の妄想はどんどん膨らんでいく。
ついでに、別の部分も膨らみ始めた。あああ、オレってヤツは…。アキラに陵辱される
ヒカルを思い出して悲しむより先に興奮するなんて…。(注:アキラが同じようなことを
考えた過去があることを社は知らない…)
悶々とした気持ちを抱えて、社は二人を待った。
「さっぱりしたぁ。」
ヒカルの元気な声が聞こえた。と、同時にヒカルが障子を開けて、入ってきた。アキラも
ヒカルの後に続く。
「…でもさぁ…あんなだったら、三人で入ってもよかったじゃん…」
と、ヒカルはアキラに言った。
「…あんなって、どんな?ほかに、なにかあるの?」
アキラが笑いを含んだ声でヒカルに問い返した。ヒカルは、顔を真っ赤にして口ごもった。
「な、な、な何にもねえよ!!」
ヒカルはプイッと横を向いた。そして、「塔矢…意地悪だ…」と、呟いた。
社は嬉しいような悲しいような複雑な気持ちだった。どうやら、二人は普通に入浴を
していたらしい。だが、ヒカルはアキラと入ることに多少の期待を持っていたようだった。
『やっぱ、一番は塔矢か…。知っとったけど…切ないわ…』
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