トーヤアキラの一日 29
(29)
アキラはそっと体を離すとヒカルの右手を両手で取って、愛しそうに撫でた。
「フフ、前にキミの右手にこうして触れた時の事を覚えてる?」
「えっ?オレの手に?」
「そう、キミと二回目に会った時だよ。さっきの地下鉄の入り口の前で」
「あっ!」
「あの時と比べると随分大きくなっているけど、柔らかさは変わらないね」
そう言うと、大事な物をいとおしむ様に頬擦りした後、ヒカルの手に口付ける。
手の甲から指先に唇を這わせながら何度も口付けて、最後には人差し指と中指を咥え
込んだ。アキラは軽く目を瞑って、ピチャピチャと音を立てて二本の指を嘗め回す。
舌を動かしながら薄目を開けて、ヒカルのあっけにとられている顔を見ると、さらに
グチョグチョと音をたてて、しゃぶるように夢中で指を吸い始めた。そうして、
気が済むまで指を味わったアキラは、ヒカルの指を口から離すと濡れた指を自分の頬で
拭きながら囁く様にしみじみと言う。
「この指でキミは碁石を打っているんだね・・・」
ヒカルはアキラの顔を見詰めたまま呆然としていた。
アキラはヒカルの手を下ろして、表情を元に戻すと、
「さ、何か暖かいものでも飲もう。この間払いそびれたから、今日はボクが奢るよ」
と言って歩きだす。
「う、うん、そうだな。」
ヒカルもアキラにピッタリと寄り添って歩き出した。
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