初めての体験 29
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頬を紅潮させ、喘いでいるヒカルを揺すりながら、門脇は聞いた。
「なあ・・・何でオレを誘ったの?」
「かどわきさ・・・つよいから・・・オレ・・・」
ヒカルが荒い呼吸の下から、答える。
「強いから?」
「オレ・・・つよいひと・・・すき・・・だから・・・」
自分を負かした少年に強いと言われて、門脇は嬉しかった。
「オレ・・・本当は学生三冠だったんだ・・・お前に負けたけどな・・・」
と、ちょっと寂しげに笑って呟いた。
その呟きがヒカルに聞こえたかどうかはわからなかった。門脇が与える
快感を、ヒカルは必死に追っていた。
二人で授与式の会場に戻ったが、門脇とは入り口で分かれた。
アキラがヒカルを見つけて、駆けてくる。手には賞状を持っていた。
「進藤・・・!どこへ行っていたんだ?」
「ごめん。知ってる人に会って、外で話しをしてたんだ。」
ヒカルがアキラにペコッと頭を下げた。
「知ってる人ってさっきの人?」
アキラが怪訝そうに訊ねた。悪びれずヒカルは答えた。
「うん。元学生三冠だったんだぜ。どーりで強いはずだよ。」
「対局したことがあったんだ?」
「院生の頃、一度ね。」
ふーんとアキラは呟いて、そっとヒカルの手を握った。
「どうしたんだ?塔矢。」
ヒカルがアキラの顔を覗き込んだ。普段のアキラは人目があるところでは、
決してこんなことをしない。黙り込んでいるアキラの手をヒカルはぎゅっと握り返した。
「ごめん・・・。黙って出ていって・・・。帰ったら、二人でお祝いしよう。な?」
俯いているアキラに話しかけた。
「塔矢が、賞状うけとるとこ見れなかったな・・・。ごめん。」
アキラは顔を上げて、照れくさそうに言った。
「進藤・・・。ボクこそ子供みたいに拗ねたりして・・・。」
そして、ヒカルの手を強く握った。
ヒカルは『アキラは本当に可愛い』と思った。その『可愛い』には、もちろん、
色々な意味が含まれているのだが・・・。
ヒカルは、アキラにじゃれつきながら、
門脇・・・元学生三冠!油断大敵!やっぱつえーぜ!
と、手帳に書いておこうと思った。
<終>
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