初めての体験 Asid 29
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ボクは、俯せで転がされている老人の後頭部を掠めるように、ベルトを振り下ろした。
老人の身体がビクッと震える。
「先生、ちっともボクの質問に、答えてくださらないんですね…」
ボクは、静かに立ち上がった。そうして、押し黙ったままの老人のすぐ脇にある邪魔な膳を、
思い切り蹴飛ばした。派手な音を立てて、陶器の器が畳の上に投げ出された。幾つかは、
欠けてしまったかもしれない。
足で、老人を転がす。枯れ木の様な身体は、簡単に仰向けになった。ボクは、立った
まま、本因坊を睨み据えた。
「進藤ヒカル――――ご存じですよね?」
一瞬、老人の瞳に動揺が走ったのをボクは見逃さなかった。
「彼とここに来たことが、あるのではないですか?」
本因坊は、慌てて首を振った。ウソだ―――――直感的にそう思った。
「彼――――ボクの恋人なんです。」
ボクがそう言ったと同時に、冷水を頭から浴びせられたかのように、老人の身体がぶるぶると
小刻みに震えだした。
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