平安幻想異聞録-異聞- 29 - 30
(29)
「座間様や菅原様が、そういう趣味あるのは噂で知ってたけどさ…貴族様の
雅な趣味ってヤツ?わかんないよなぁ。佐為も一応貴族だろ?
・・・そういうの経験ある?」
「お稚児好みというやつですか……そうですね。ありますよ」
穏やかに言いきった佐為を、ヒカルは興味深げにじっとみつめた。
「あるんだ?」
「えぇ。私は、貴族の寵愛を受けた女がどうなるか、捨てられた女が
どうなるか、母を見て、身を持って知っていますから。本妻でもない女性と
そういう関係を持つのに嫌悪感があるのです。ですから」
「その代わりに?」
「そうですね」
「おまえもさ、オレにそういうことしたいって思ったことあるの?」
ひとつ呼吸をおいて、佐為は答えた。
「ありますよ」
ヒカルのかたがピクリと震えて、大きな瞳で驚いたように佐為を見返した。
「ヒカルの着物をはだけて、その肌を抱きしめたいと、唇を重ねて、
ヒカルの全てを自分のものにしてしまいたいと思ったことが、ありますよ」
――嫌われてしまっただろうか?傷つけてしまっただろうか?
「そう、なんだ…」
だが、次のヒカルの言葉は、今度は佐為の瞳を大きく見開かせた。
「じゃあさ、オレとしてよ」
(30)
「佐為がしたいようにしてみてよ」
「ヒカル、何言ってるかわかってるんですか?」
「わかってるさ。佐為と寝るってことだろ」
「ヒカル!」
ヒカルは体を起こし、そのまま佐為の腕をひきよせて、その胸に顔をうずめた。
「佐為となら、そうなってみたい」
佐為はだまってヒカルの背中に手を回した。
しばらく躊躇したように黙っていた佐為が、口を開く。
「ヒカル、ひとつだけ言っておきますが、こういうことをしても
私はあなたのことを稚児のように思っている訳ではありませんよ。
ちゃんとあなたのことは、一人の武人として尊敬しているし…」
「もう!わかってるって!」
ヒカルは笑いだした。
「やっと、笑いましたね、ヒカル」
「そう?ずっと笑ってたよオレ」
「笑う真似してただけでしょう?」
「あ、ばれてた?」
「あたりまえです」
「佐為には隠し事ができないよなぁ。だから」
「だから?」
「大好き」
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