平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 29 - 30


(29)
けれど、そう強がりを言うには、ヒカルにとって内裏という場所は、あまりにも、
佐為との思い出に満ちていた。
彼の囲碁指南の仕事の終わるのを待って、控えの部屋から眺めた空の色も。
人気のない時に、柱の影で密かに交わした口付けの味も。
二年半前、殿上に上がるようになったヒカルが覚えている内裏の景色の中には、
常に佐為の姿があった。
内裏に植えられた花々の、その四季の移ろいとともに。
春には桜の木の下に。
夏は橘の木の横に。秋の紅葉に。冬の椿に。
ヒカルが止めるのも聞かず、雪の薄く積もった内裏の中庭に降り、白い椿と赤い椿を
手折ってきて、まず白い花をヒカルの頭に挿し、首をかしげ、それから赤い花を挿して
満足そうに「やっぱり、ヒカルには赤い花の方が似合う」と、子供みたいな顔をして
嬉しそうに笑っていた佐為。
(いけない)
また、甘やかな記憶の中に潜っていってしまっていた自分に気付く。
ヒカルは、歩き始めた伊角の背中を慌てておいかけた。


(30)
若いながら、内裏内で政治的な影響力を持つ伊角は、専用の控え室を与えられていた。
議事の前の最後の書状の仕上げや、友人達との意見交換はおもにここで行われる。
仕事が長引いてしなったときは、そのままこの場が臨時の寝室になることもある。
伊角に案内されて、ヒカルが始めて訪れたその場所にはずでに先客がいた。
「よう、今日から伊角さんの警護だって? よろしく頼むぜ!」
そう言って、貴族とは思えないざっくばらんな口調で話掛けてきたのは和谷助秀だ。
その他に知らない人間が二人。
「門脇さんと、岸本」
和谷が紹介してくれた。取りあえず型通りの挨拶を交わす。
「あぁ、俺も様付けじゃなくて、さんでいいから」
と、砕けた調子で言う門脇の横で、岸本と紹介された男だけは、黙ってヒカルを
睨みつけた。
何やら、その眼光に意味のわからない敵意が込められている気がして、ヒカルは
心の中で首をすくめる。
「でさぁ、伊角さん、今度の豊明節会の仕切り役の事だけど……」
政治的な話が始まってしまうと、ヒカルはさっぱりわからない。
ぼんやりと聞き流しているうちに、時間はたって、伊角は御前での会議に出るため
に部屋を出た。
その場所までの短い距離も、用心のためにヒカルは付き従う。
清涼殿の中へ消える伊角を見送って、先ほどまでいた部屋に帰るために振り返ると、
そこに賀茂アキラがたっていた。びっくりした。さっきまで何の気配もなかったのに。
まるで妖しかなにかみたいだ。
「おま…。そんなとこに、なんで突っ立ってんだよ」
賀茂アキラは憂鬱そうな顔をしてヒカルを誘う。
「ちょっと、いいかな」



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