パッチワーク 29 - 30


(29)
そう、僕と彼は最初ただの友達だった。彼は僕に比べればクラスメートとくだらない話をするなんて言う
地に足の着いた中学時代をおくっていたし、中学を卒業しても院生時代の仲間がいた。それに同期の越智
も和谷君も同年代だ。僕の同期は辻岡さんと真柴さんで歳が離れているし他に友達と言ったら芦原さんく
らいしかいなかった。 僕にとっては久しぶりの同年代の友達だったせいかちょっと浮かれてたかもしれな
い。だから検討のあと彼とバカ話をするのはそれなりに楽しかった。そんな中で彼が既に幼なじみと経験
したことも知った。胸の奥が痛んだけれどそれは自分が彼に比べて奥手だという劣等感だと思った。でも
そのあとその彼女が彼の家に下宿するようになり、彼の体臭に時々女の子のする安手のコロンの香りがか
すかだけれど混じるようになった。さりげなく話をし向けると「一人で寝てるとなんか時々寂しくなるん
だ。そんな時はあいつの部屋で寝るんだ。」「そんなことして嫌がられないの?」「あいつも、ずっとお
姉ちゃんと同じ部屋で寝てたから一人だと寂しいって言ってる。」「なんか、同じ部屋で寝てる人がいる
と安心しねぇ。」僕は彼と一緒の部屋で寝ていると自分の心臓の音がやたら大きく聞こえて、彼にもこの
音が聞こえてしまうんじゃないかと不安になっていたから「違う」と言いたかったけれどそれじゃぁまる
で彼と同じ部屋にいることが不安だと思われると思って彼に同意した。

いけない、思ったより時間が経っている。今日の内にもう一つやっておかなければいけないことがある。
この半年乗っていなかった車を箱根に持って行く前に整備に出そうと思っていたんだ。僕の車はシトロエ
ンの2CVで色は黒とグレイのツートンカラー。免許を取ったとき彼がプレゼントしてくれた。

http://www.riesen.co.jp/2CVGray1.jpg

そして僕が彼に選んだのは黄色のROVER MINI

http://www.isize.com/carsensor/CSphoto/bu/030807/0/W/00/H001890000101010101B0001011S.JPG

勿論どちらももう製造中止になっているガソリン車だったから今の環境基準に合う電気自動車にして内装も
当時のもののレプリカを特注した。


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整備工場に持って行き最近乗っていなかったことなどを話したりして帰ろうとしたとき敷地の隅に置いてある
黄色い車に気づいた。後ろ側がつぶれようになりフロントガラスにもひびが入っている。まさか。ナンバーを
確認する。彼の車だ。声が震えるのこらえられなかった。「この車どうしたんですか?」工場の人が言うには
街灯の柱が腐食していて脇に停まろうとしていた車に倒れてきたそうだ。「けがは?」そこまでは工場の人も
知らなかった。事故が起きたのは僕が入院した日だった。正直、病院に来てくれなかった彼に拗ねていた、意
地になっていた。だから、彼に連絡を取ろうとしなかった。彼の携帯に電話をした。返ってきたのは「この電
話は現在使用を停止しています御用の方は03-****-****までお掛け直し下さい。」という機械ボイスだっ
た。彼の家、あの女のいる家の電話番号だ。掛けられなかった。明日は彼も手合いがあるはずだ棋院で会える
だろうか。



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