初めての体験 Asid 29 - 30


(29)
 ボクは、俯せで転がされている老人の後頭部を掠めるように、ベルトを振り下ろした。
老人の身体がビクッと震える。
「先生、ちっともボクの質問に、答えてくださらないんですね…」
ボクは、静かに立ち上がった。そうして、押し黙ったままの老人のすぐ脇にある邪魔な膳を、
思い切り蹴飛ばした。派手な音を立てて、陶器の器が畳の上に投げ出された。幾つかは、
欠けてしまったかもしれない。
 足で、老人を転がす。枯れ木の様な身体は、簡単に仰向けになった。ボクは、立った
まま、本因坊を睨み据えた。
「進藤ヒカル――――ご存じですよね?」
一瞬、老人の瞳に動揺が走ったのをボクは見逃さなかった。
「彼とここに来たことが、あるのではないですか?」
本因坊は、慌てて首を振った。ウソだ―――――直感的にそう思った。
「彼――――ボクの恋人なんです。」
ボクがそう言ったと同時に、冷水を頭から浴びせられたかのように、老人の身体がぶるぶると
小刻みに震えだした。


(30)
 ボクは、今、「ここに進藤と来たことがあるか?」と訊いた。「来ていない」と、いうのが、
ウソだとすると…この老人は少なくとも二回以上進藤と――――――!?
 だって、あの時は地方のイベントだったんだ!ここは、東京…。ああ…知りたくなかった。
進藤がこの猿に……!し・か・も 二 回 も !!!ジジイ!こんなカマかけに、
簡単に引っかかるな!
 だが、例え老人がしらを切ったとしても、ボクは彼が白状するまで執拗に嬲り続けた
だろう。だから、結果は同じだ……同じなんだけど……ああああぁぁぁ!!!でも、納得
できない!身勝手と言われても、認められるかぁ!

 ボクの心は、怒りの臨界点を突き抜けて、逆に酷く冷静なっていた。無理に感情を
抑える必要はない。頭の中は異常な程に冴えていた。



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