初めての体験 Asid 29 - 34


(29)
 ボクは、俯せで転がされている老人の後頭部を掠めるように、ベルトを振り下ろした。
老人の身体がビクッと震える。
「先生、ちっともボクの質問に、答えてくださらないんですね…」
ボクは、静かに立ち上がった。そうして、押し黙ったままの老人のすぐ脇にある邪魔な膳を、
思い切り蹴飛ばした。派手な音を立てて、陶器の器が畳の上に投げ出された。幾つかは、
欠けてしまったかもしれない。
 足で、老人を転がす。枯れ木の様な身体は、簡単に仰向けになった。ボクは、立った
まま、本因坊を睨み据えた。
「進藤ヒカル――――ご存じですよね?」
一瞬、老人の瞳に動揺が走ったのをボクは見逃さなかった。
「彼とここに来たことが、あるのではないですか?」
本因坊は、慌てて首を振った。ウソだ―――――直感的にそう思った。
「彼――――ボクの恋人なんです。」
ボクがそう言ったと同時に、冷水を頭から浴びせられたかのように、老人の身体がぶるぶると
小刻みに震えだした。


(30)
 ボクは、今、「ここに進藤と来たことがあるか?」と訊いた。「来ていない」と、いうのが、
ウソだとすると…この老人は少なくとも二回以上進藤と――――――!?
 だって、あの時は地方のイベントだったんだ!ここは、東京…。ああ…知りたくなかった。
進藤がこの猿に……!し・か・も 二 回 も !!!ジジイ!こんなカマかけに、
簡単に引っかかるな!
 だが、例え老人がしらを切ったとしても、ボクは彼が白状するまで執拗に嬲り続けた
だろう。だから、結果は同じだ……同じなんだけど……ああああぁぁぁ!!!でも、納得
できない!身勝手と言われても、認められるかぁ!

 ボクの心は、怒りの臨界点を突き抜けて、逆に酷く冷静なっていた。無理に感情を
抑える必要はない。頭の中は異常な程に冴えていた。


(31)
 ボクは、本因坊を冷たく一瞥した。と、ある一点に、視線が止まってしまった。怯えた
表情とは裏腹に、老人のグロテスクなモノは隆々と立ち上がっていた。
 相当、強力な薬だったらしい。たった一口でこれか……。全部飲んでいたら、死んでいた
かもしれないな。そのほうが、よかったのに……。 だが、よく考えると、あれは本来ボクが
飲むはずの物だった。若い僕でも、ただですむわけがナイ!徹底的に、虐めてやる!

 「はしたないですね。ここをこんなにして…」
ボクは、ベルトで、軽くそこを叩(はた)いた。「うぅ!」老人が小さく呻いた。
 続けて、何度も叩く。力を入れずに、ごくごく軽く。老人の口から、熱い息が吐かれた。
「感じているんですか?こんなことをされているのに?」
そう言いながらボクは、思い切り、老人の太股を打った。
 パァン!―――――鋭い音が座敷に響いた。
「ひぃ……!」
悲鳴が上がる。痛みで本因坊のモノは、少し萎えてしまった。
 ボクは、再び老人をベルトで軽く嬲る。とても優しく、愛撫するように…。そして、
その後は――――――
それを何度も何度も交互に繰り返した。


(32)
 最後に強く老人自身を打ち据えた。本因坊は、「ひぃっ!」と大きく息を吸い込むと、
とても老人とは思えぬ勢いで、汚汁をまき散らしながら果てた。
 その姿の醜さに目を背けたくなった。涎にまみれた弛緩した口元。どんよりとした瞳。
己の吐き出した液体に汚れる干からびた下半身。そして、浅ましくもまだ、存在を誇示している
本因坊自身。
 ボクは、本因坊を冷静に観察しているうちに、自分の誤りに気がついた。ボクは今まで、
老人を同じ趣味の持ち主だと思っていたのだが…もしかして…もしかすると………。
 突然、ボクの思考は遮られた。 
「うで…腕が痛い…はずしてくれ…」
老人が呻いたのだ。後ろ手に縛られた腕が、身体の重みでよけいに痺れるらしい。
「へえ…辛いと言う割に、ここはずいぶんと元気なようですが…?」
足で、思い切り踏みつける。靴を履いていないのが残念だ。この靴下は捨てて帰るか…。
老人の息が瞬間止まった。だが、目には情欲の色が濃く浮き出ている。
 ボクはベルトを放り投げると、本因坊の側から離れた。老人の顔に戸惑いと絶望が浮かんだ。
壁に寄りかかって、老人を眺める。身体を捩らせたり、足をもぞつかせている。時折、
何か言いたそうにボクを見る。その訴えるような視線を冷たく無視した。


(33)
 「と……や…」
本因坊が、か細い、だが、粘るような声でボクに呼びかける。
「ボク、素直じゃない人嫌いなんです。」
汚物でも見るような視線で、ボクは、老人を一瞥した。
「先生は、先ほどからウソばかり…ボクが子供だと思って侮っているんでしょう?」
「これ以上、ボクを騙そうとするなら、ボクはこのまま帰ります。」
老人が、上半身を無理やり起こし、苦しい姿勢から懇願した。
「ま…待て………言う…言うから……全部…」
本因坊は、「本当ですか?」と訊うボクに、何度も頷いて見せた。落ちた…!

 訊きたいことは、たった一つ。進藤のことだけだ。本因坊が何人棋士を連れ込んだか
なんてどうでもいい。この老人がどんな風に進藤を抱いたのか…それが知りたい。
「先生、進藤をどうやって汚したんですか?やはり、薬ですか?」
「そう…じゃ…薬をつかって…身体の自由を訊かなくして…」
 ボクは、詳しく訊ねた。どうしたことだろう?本因坊への怒りは変わらず胸の中に熱く
滾っているのに、老人の口から語られる事実に次第に興奮していく。この醜い老人が、
可憐な進藤をどのように蹂躙したのか想像しただけで…股間が…。―――ヘンだ…。
いくらボクでも、大事な恋人を酷い目にあわされたのに…こんな………進藤、ゴメン。


(34)
 本因坊の唾液や、精液で身体中をどろどろに汚されて…咽び泣く進藤。まるで、その場で
見ていたかの様に光景が浮かぶ。イメトレの成果が、こんなところで発揮されるとは…!
 しかし、本因坊から、ボクの想像を遙かに超えた事実を告げられた。二度目は老人一人では
なかった!指導碁ってそう言う意味だったのか?一体、進藤にナニを指導させたんだ!?
そして、その事実にますます激昂するボク自身……。ショックだ……。頭を強く振って、
想像をうち消そうとした。
 だが、きつく閉じた瞼の裏には、二人の男に押さえ付けられ、本因坊を無理やり受け
入れさせられる進藤の哀れな姿や、屈辱の涙に濡れる愛くるしい大きな瞳がリアルに映っていた。

 ボクは、老人を乱暴に転がすとその後ろの部分に、乱暴に己を突き立てた。進藤の受けた
屈辱はボクがはらす。本音を言えば、コンドームが欲しい。が、この際仕方がない。
「ぎゃあぁ!」
老人が、断末魔のような悲鳴を上げた。ボクが無情に突き上げる度に、老人は派手な
泣き声を上げた。ざ・ま・あ・み・ろ!…だ。
――――――――進藤を犯した老人を、今度はボクが犯している。
 どうしよう。何だか、倒錯的で妙な気持ちになってきた。最初はわめいていた本因坊も
今では、目は恍惚と潤み、口はだらしなく弛緩している。



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