黒い扉 3
(3)
「緒方様、いらっしゃいませ。そちらはお連れの塔矢様、でございますね。
芹澤様からお話は承っております。ようこそおいで下さいました」
物静かな微笑みを湛えた男は、どうやらこの店の支配人らしい。
男が合図すると両脇から別の若い男が現れて二人のコートを預かり、
そのまま奥へ通された。
(なんだ、全然普通のお店じゃないか)
通されたのは静かな音楽と間接照明によって演出された、落ち着いた雰囲気の空間だった。
今日は立食形式ということになっているのか、
ぴかぴかに磨かれた黒大理石の床の真ん中に軽い料理が載った長テーブルが置かれてあり
椅子は壁際にずらりと寄せられている。
隅のほうには数人が座れる程度のカウンターがあり、
グラスをたくさん並べた前でバーテンダーが軽快にシェイカーを振っている。
ぼんやりと想像していたような「イヤラシイ」雰囲気がどこにもなかったので、
アキラはほっと緊張を解いた。
緒方の浮気相手になりそうな派手な女性もいない――
いや、女性の影そのものが見当たらない?
少し不思議に思って辺りを見回しても、立ち働いているのはやはり男ばかり、
それもまだ20代かそこらの目鼻立ちの整った青年ばかりである。
彼らは皆すらりとした体の線が出るぴっちりとした黒い服に身を包み、
捲った袖から誇示するように筋肉質の腕を出して、きびきびと大股に動いている。
(あんなぴったりした服で、動きにくくないのかな・・・)
くっきりと浮かび上がった尻の筋肉の動きに思わず見入っていると、
相手が振り向きにこっと微笑みかけたのでアキラは頬を赤らめた。
「一番乗りらしい。カウンターで待たせてもらおう。アキラ君、こっちだ」
「あ、はいっ」
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