指話 3


(3)
ふと、あの人が初めて父のところに来たころの事を知りたくなった。
だが、父に聞くのは気が引けた。父は特定の門下生を目にかけたりという行為を絶対に
しない。それに倣うように母も自分も気をつけていた。だから自分がその人に興味を
持っていると覚られたくなかった。
父のアルバムを見ると、多少若い時のその人が写っているものも何枚かあった。
他の門下生と共に、棋院や家の前で撮ったものだ。
今より若干短かめにまとめた髪型であること以外は眼鏡もスーツスタイルもあまり
変わらない。長身で目つきが鋭くてすぐに彼と分かる。笑顔を浮かべている他の
門下生達とはどこか違う雰囲気を漂わせている。
もう少しさかのぼると、年輩の棋士達に混ざって制服の白シャツらしきものを着た
青年が写っているものが一枚だけあった。眼鏡はかけていない。だが、あの人だ。
父も今では見る事のなくなったスーツ姿をしている。その人は父の斜め後ろにいた。
その時はまだ父の方が背が高かったようである。その父の姿は、今のあの人と
よく似ていた。スーツの色合いも髪型もだいぶ違う。けれど、似ていた。
自分もあの人に似ていくのだろうか、と少し想像したらおかしくなってきてやめた。
アルバムを閉じ、自分の心にも封印をかける。
おそらくあの人が父を追ったように、自分もあの人を追い続けるのだろう。
父にも、そういう目標の存在があったたのかも知れない。そしてそれは誰かに
宣言する類いのものではない。自分はひた向きにただ目標に向かえばいい。
自分の中で、これ以上は無いと言う納得の仕方だった。
あの人はおそらく気付いている。自分の視線に。そしてそれに気が付かない振りを
装っている。多分これからも。それで良いと思っていた。信頼と親愛のバランスに於いて。
そのバランスが崩れ始めたのは進藤ヒカルに出会ってからだった。



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