浴衣 3
(3)
「あれは!」
僕は思わず声を荒げていた。
「芦原さんたちが買ってくれたから、残したらいけないって、つい!」
プッと進藤が吹き出した。
「塔矢ぁ、聞いてるだけで胸焼けしそうだ」
そこで母と声を合わせて、朗らかに笑う。
「なにがそんなにおかしいのかね」
僕の座っている場所からは姿が見えなかったが、廊下に膝を吐き襖に縋るようにして笑っている母の後ろから、父の声がした。外出から戻ったんだ。
「お、お邪魔しいます」
進藤が、慌てて居住まいを正した。
「ああ、誰が見えているのかと思ったら、君か。久しぶりだね」
「ご無沙汰しています」
襖を大きく開けにこやかに笑いかける父を見ると、進藤はきっちり頭を下げた。
「今日は?」
父が、僕と進藤、交互に視線を向ける。
「たまたま休日が合ったので、お不動さんの縁日に誘ったんです」
「8月の例祭か。それでは、ちょうどよかったな」
父はそう言うと、風呂敷包みを母に手渡した。
「銀座の錦屋によったら、ちょうど出来あがってきたところで、預かってきたよ」
「あらいやだ、あなたを使うなんて、錦屋のご主人に文句を言わなくちゃ」
「やめておきなさい。今日はご隠居さんが見せにいらしてね、久しぶりに打ってきたんだ。
ご隠居さんが、おうちで坊ちゃんが楽しみにしているからと、持たせたんだ。若主人はその後ろでおろおろしていてね、可哀想だったよ。その上、おまえに文句を言われては、立つ瀬がなかろう」
「それもそうですね」と言いながら、母は僕たちの前で風呂敷包みを開いた。
「浴衣だ」
進藤が、明るい声をあげる。
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