アキラとヒカル−湯煙旅情編− 3
(3)
「ええ―、釣りー?」ヒカルが不満そうな声を上げる。
「やんの?マジで?」
「だって面白そうじゃない?ボク一度やってみたかったんだ。それに夕食までにはまだ時間があるし。」
なんだかさっき仲居さんと長話してると思ったらこれだったのか・・・。
夕食までの間ずっとアキラと部屋で過ごしたかったヒカルは面白くない。
ぶつくさ言ってみたがアキラは乗り気で、1人でも出かける勢いだ。
仕方ない、大魚でも釣ってカッコイイとこ見せるか;・・・ヒカルは重い腰を上げた。
「旅館の傍の渓流で釣れるんだよ。」
なんだか子供のようにはしゃいでいるアキラを見るのも悪くない。
フロントで釣竿を借りて餌を買うと、二人は旅館の下の渓流に降りていった。
「なにが釣れるんだ?。」
「今の時期だと山女とか岩魚が釣れるらしいよ。釣れたら夕食で塩焼きにして出してくれるらしい。」
「ふうん。」
餌袋を開いてみて思わずヒカルは袋を投げ出した。
「な、なんだよ、これ。」
「ナニって、餌だよ。」
アキラは顔色を変えずに袋からニョロニョロと這い出てこようとするミミズを袋に戻しいれた。
ヒカルはルアーフィッシングしかした事がなかった。
アキラは餌袋からミミズを一匹取り出しごめんなさい、と頭を下げると、釣り針に波縫いのように縫い付けていった。
「おまえ、手馴れてるな・・・。」
「小さい頃緒方さんに釣堀センターに連れていってもらった事があるんだけど、その時のボクはミミズが可哀想で緒方さんがやるのを見ているだけだったんだ。だけど、ごめんなさいって言えばミミズは許してくれるんだって緒方さんは言っていた。」
ミミズを縫いつけながら思い出に酔いしれている風情のアキラを、複雑な面持ちで見つめながら、ヒカルは恐る恐る餌袋に手を伸ばした。
「うっ・・・」餌袋の中でも一番大きいヤツがヒカルの人差し指に絡み付いてきた。
「ボク・・・付けてあげようか?」
アキラが心配そうにこちらを見ている。
「何言ってんだよ、こんなのどおってことねえよ。」
作り笑いを浮かべながら、ヒカルは太ったミミズを釣り針に縫い付けていった。
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