四十八手夜話 3
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どことなしか偉そうに言うアキラに、ヒカルは観念して心の中で(はい、そうですか。
気をつかっていただいて、そりゃどうも)と、つぶやきながら、今度は多少真剣に
手の中の紙の束を眺める。
何しろ、どの体位を選ぶかで自分の今夜の運命が決まるのだ。真剣にもなろうと
いうものだ。
最初の方に「本手」というのが出てきた。いわゆる正常位だ。
とりあえず、これだ。なるほど四十八手と言ったって皆が皆、変な体位ばかりでは
ない。割りとありがちで簡単そうな奴をまぜて十五種類選べばいいのだ。そう思えば、
気が楽になった。
「じゃあ、まずこの本手っていうやつと……」
と、言ったら、アキラの顔が強ばった。何でだよ、と思う間もなくアキラが
ベッドを指さした。
「そこに座れ」
「…はい」
アキラの目が何かの怒りでギラギラしている。蚊の泣くような声で返事をしてから
ベッドに這い登り、思わずちんまりと正座していた。
続いてアキラもベッドに登り、ヒカルの目の前にきっちりと居住まいを正して正座する。
「君は真面目にやる気があるのか、進藤」
俯いて上目遣いにアキラを見る。
なんだか御白州に引きだされて、御代官様の裁定を待つ罪人の気分だ。
昨日の夕方に見た『大岡越前』のクライマックスの光景がヒカルの頭をよぎった。
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