月下の兎 3


(3)
“ピュー”という口笛と供に数人の足音がこちらに向かってくるのを
アキラが先に気付いた。
情けない事に自分は久しぶりにアキラと唇を深く重ねた触感に夢中になって
アキラが体を離そうとしているのを力で押さえ込んでいた。
「進藤、人が…」
僅かに離れたアキラの唇がそう動いた時は相手からすっかりこちらの姿が
見える距離だった。
「おやあ、こりゃあ驚いたな。」
「最近のガキは…やるもんだねえ。」
5〜6人の大学生風の男達だった。体育会系らしくみな背が高くがっしりしていた。
だがお世辞にもちょいと声をかければ街で女の子をゲット出来る、というタイプでは
なさそうな連中だった。
「オレはてっきり女の子同士のアレかと思ったぜ。」
そう言って冷やかすように笑いながら彼等はそれぞれの間隔を広げ、
こちらを包囲しようとして来た。
彼等が何をしようとしているのかは分らなかった。
だが危機を感じてアキラと横目で見合い、彼等に背を向けて一緒に駆け出した。
無気味だったのは彼等が手慣れた様子で無言ですぐに追って来た事だ。
後はただ、夢中で走った。その途中でアキラが消えた。



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