平安幻想秘聞録・第二章 3
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「今朝、藤原行洋さまから文が届きました」
「文?手紙のこと?」
「そうです」
「悪い知らせ、なんだろ?」
まさか怪しい話をぶちまけている自分をしょっ引いて来い!なんて書
いてあったんじゃ・・・先を言い淀んだヒカルに、佐為は首を横に振る。
「しょっ引けなどと書いてありません。ただ、光と話をしてみたいと」
「オレと?」
「私と明殿の話から、ある程度、光のことを信用していただけたみたい
ですが」
やっぱり疑ってるんだなと、ヒカルは思った。そりゃ、そうだよな。
オレだって自分のことじゃなかったら、こんな話は信じねぇもん。まし
てや塔矢先生だしなーと、変なところで納得しているヒカルだった。
「えーと、その、藤原行洋が・・・」
「せめて『さま』をつけてくれ、進藤」
「あっ、ごめん・・・って、賀茂、いつ来たんだよ?」
いつの間にやって来たのか、佐為の横に明が座っていた。佐為との話
に夢中になっていたにせよ、部屋に入る気配も感じさせないとは、さす
が稀代の陰陽師だけある。ヒカルの陰陽師に対するイメージは、ドラマ
や映画の影響もあって、少し、いやかなり脚色されたものになっていた。
「いつって、先程、声をかけてから部屋に入ったじゃないか」
「ご、ごめん」
「まぁまぁ明殿も怒らないで。それで、光、何を言いかけたのですか?」
「あー、そうだ。藤原行洋・・・さまが、ここに来るの?」
「さすがにこの屋敷に来ていただくことは憚れますから」
理由は言わなかったが、それでなくとも佐為は藤原行洋の息がかかっ
ていると内裏では評判なのだ。ただ静かに囲碁指南を全うしたいだけの
佐為にとっては、貴族同士の確執は煩わしいところもある。それでいて、
今回は行洋を頼ってしまっているジレンマもあるのだが。
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