平安幻想秘聞録・第四章 3
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「それって、それってどうゆう・・・」
意味なの?そうに聞き返したいのに、すぐに次の言葉が出て来ない。
もし、自分が期待しているのとは違う答えが返って来たら。そう思うと、
何かが喉元に引っかかり、あかりの声を封じてしまった。
そんなあかりの気持ちを察したのか、奈瀬はもう一度重ねた手に力を
込め、少し微笑みながらこう言った。
「近衛は、ついこの間から、佐為様の護衛で参内してるそうよ」
さわさわと音を立て、心地の良い風があかりの中を通り過ぎる。人は
あまりにも喜びが大きいときにも、茫然自失になるものだと、身を以て
知った。奈瀬に告げられた言葉の意味を租借し、それがあかりの身とな
るまで、短くはない時間が必要だった。
「ほんとに?本当に、光なの?」
「えぇ。私もすぐには信じられなくて、日高の君に近衛光に間違いない
のかって、何度も確かめたもの」
嬉しそうに頷く奈瀬に、あかりも目を潤ませたまま笑顔になる。
「良かった。光・・・」
やっと立って歩けるようになったばかりの幼い頃からの筒井筒の少年。
奈瀬や津田には恋文の一つでも貰ったの?と、からかわれることもあっ
たが、むしろ光とは姉弟のような気安さがあり、恋愛感情は二の次、三
の次だった。それだけに、本当の肉親を亡くしたような喪失感があかり
の中にあった。その光が、見つかったという。
「でも、どうして私のところに知らせが来なかったのかしら」
藤崎家と近衛家は塀を隔てて、敷地が隣り合っている。これ以上のお
隣さんはないだろう。近衛の家にもたらされた吉報は、自然と藤崎の家
にも伝わり、両親や姉からあかりに文の一つでも届いても良さそうなも
のだ。
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