sai包囲網・中一の夏編 3
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ほどなくして、進藤越しに碁盤が映し出されるのが見えた。saiを
目で追えば、表示が対局中に変わっている。アマチュア囲碁大会でも、
各国の選手が話題にしていたほどだ。saiなら自分から対局相手を探
すまでもないはずだった。
迷わず観戦を選ぶと、既にすごい数の観戦者が訪れていた。相手が黒
番、saiが白番。最初の一手が打たれたとほぼ同時に、進藤の手元が
動く。カチリ、マウスの立てる音が聞こえて来るような気がした。それ
だけボクは進藤の動きに神経を集中していた。画面に現れる白の一手。
それに続く黒、そして、白・・・。
白石が打ち込まれるタイミングは、進藤のマウスの動きにぴったりと
一致していた。だけど、これだけでは、進藤があのsaiだと確信でき
ない。たまたま進藤のハンドルネームが同じsaiなのかも知れない。
もっと悪意を持って言うなら、彼がsaiの名を騙っている可能性だっ
てある。それは、対局を見ていれば、自ずと分かるはずだ。
持ち時間が短いせいもあるのだろう。ほとんどノータイムで打ち込ま
れるsaiの手の早さも手伝って、呆気ないほど簡単に相手が投了した。
その後も、saiの対局を追ったが、ほとんどが中押しで勝ちを収めた。
その見事なまでの打ち筋は、あのsaiに間違いなかった。
自分の立てる心臓の音が、周り中に響いているような錯覚。気を静め
ようとしても、沸き上がってくる興奮を抑えきれない。
終局したばかりの棋譜を頭に入れて、ボクはそっと背後から進藤に近
づいた。大きく表示された碁盤には、先程まで見ていたものと一石も違
わない同じ終局図。進藤が観戦者の一人ではなく、対局者であることを
確認して、声をかけようとしたとき、進藤がえっ?と声を上げて、ボク
が立っているのとは逆の右に視線をやり、それから、慌ててこちらを振
り返った。
「と、塔矢!」
その進藤の狼狽振りに、ボクは自分の口元に歪んだ笑みを浮べた。
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