望月 3


(3)
足早に塔矢邸に向かった二人は、家を前にして立ち止まり、顔を見合わせた。
門灯が点いていたのだ。
家の中からもほのかに明かりが洩れている。
両親は台湾に滞在中で、家はアキラひとりのはずだった。
「お父さんたち、帰ってきたのかな。」
アキラは少し慌てながら門を開けた。
果たしてアキラの両親が帰宅していた。
「あぁアキラさん、お帰りなさい。」
奥から母の声が聞こえてきた。
あーあぁと失望を隠せない顔で二人はもう一度目を見交わして、家に入っていった。
「あら、進藤くんね。いらっしゃい。お夕飯用意しているところだから、食べてらっしゃい。」
「予定、変わったの?」
失望のそぶりも見せずにアキラが尋ねた。
「そうなの。お相手の棋士のスケジュールが変わったので、早めに帰ってきたのよ。」
「お父さんは?」
「今、お風呂に入っているわ。」
ヒカルはそばに立ったまま、アキラと母の会話を聞いていた。せっかくの誕生日だったのに…。
早く帰ったほうがいいのかな。ガッカリした。
アキラの母、明子が目敏くケーキの箱に目をとめた。
「アキラさん、それなぁに。いいもの持っているわね。ふふ、甘いもの、苦手じゃなかった
かしら。」
「あの、えっと、これは、きょう進藤が誕生日で、それに、本因坊戦の1次予選を突破したから、
お祝いに買ったんだ。」
「まぁ、それはおめでとう。私たちも一緒にいただいていいのかしら。」



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