温泉旅情 3


(3)
夕暮れ時の海岸線沿いの国道を愛車で飛ばす。
助手席に座った少年の、西日に照らされた横顔は、普段よりもいくらか大人びて見えた。
なのに、潮風に揺れる色素の薄い前髪を邪魔そうに掻き上げるしぐさはいつものままで、
そのアンバランスさに苦笑する。
「なに?」
笑う気配を感じたらしいヒカルが、首を傾げて俺を見る。
「何でもない」
彼の表情を横目で伺っていたことを認めるのが気恥ずかしくて、なるべくそっけなく言う。
その様子から何を思ったのか、ヒカルが不安そうに視線を揺らした。
「やっぱり迷惑だった?」
潤んだ大きな目で見つめられながら問われる。いくらか速まったように感じる鼓動を無視して、
意識をむりやり運転に集中させた。
「オレ、自分の都合ばっかりで、わがまま言って・・・ゴメン」
申し訳なさそうに言って、ヒカルが俯いた。
実際のところ、温泉に行こうという提案を受け入れはしたものの、本当に行くことになろうとは
思ってもみなかった。すぐに忘れられて流れるだろうと思っていた話が、翌日にはすでに形になって
いたのだ。若者の行動力には恐れ入る。
彼が「旅館に予約入れたいんだけど、大丈夫かな」と言って指定した日にはすでに先約が
入っていたが、どうせたいした用事でもない。午後からなら大丈夫だと伝えると、受話器越しに
「よかったぁ」と、嬉しそうな声がした。
それが、ほんの数日前のことだ。



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