少年サイダー、夏カシム 3
(3)
「・・・和谷、どうかしたのか?」
ヒカルはそっと手を和谷の目の前にかざした。
ヤベェ、めっちゃカワイイ。和谷はその手を握って抱き寄せ、今すぐにでも滅茶苦茶に抱きしめたい衝動にかられた。
しかしそんな妄想を追い払おうとでもするように、ヒカルの手を払いのける。
「いや、何でもねェよ」
そう言うと、和谷はいきなりブンブンと頭を振り、きちんとセットされた髪をぐしゃぐしゃっとかき回した。
「わ、和谷?」
ヒカルは和谷の突拍子もない行動に驚きの声をあげ、心配そうな顔をした。
「あ、いや、何でもねェから。気にすんな」
和谷はわざとらしいくらいヘラヘラと明るく笑った。しかし心拍数は急激に上昇し、背中には冷や汗をかいていた。
ヤベェぞ、これは。和谷は焦りはじめた。
和谷にとって、ヒカルは単なる友達というか手間のかかる弟みたいな存在だった。
今日だって、夏だからって腹でも出して眠ったから風邪ひいたんだろうと思って来ていた。
それなのに風邪をひいたヒカルを見て、からかうどころか、欲情してしまっている自分がいる。いったい何を考えているんだ。和谷は少しでも落ち着こうと深呼吸をした。
しかしヒカルは和谷がそんなことを考えているなど少しも思わずに、無邪気に話かける。
「なあ、それくれないのか?」
「え? あ、ああ」
ヒカルの視線の先には、先ほど和谷がコンビニで買ったペットボトルがあった。そのペットボトルのラベルには『少年サイダー』と書かれている。その炭酸飲料の発売をヒカルはとても楽しみにしていた。
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