番外編1 Yの悲劇 3


(3)
「す、すみません。これから指導碁の予定があって。」
あやまるヒカルは気後れしているように見えた。
千載一遇のチャンスを逃す嘉威ではない。
すかさずカバンから新たな白扇を出すと、桑原に向かってサインを求めた。
「桑原本因坊、サインをお願いできませんか。」
「ほう、構わぬよ。じゃが、ワシは立ってサインせん主義でな。」
猿のような老人は目を細めて青年を見た。
「ワシはこれからメシをくうんじゃが、一人ではうもうない。
若いのに碁を打つとは感心じゃ。つきあわんか。」
(こんなことがあっていいのだろうか)
戸惑いと緊張を感じながらも、嘉威はタイトル・ホルダーとの食事とサイン獲
得の誘惑を断わるほど遠慮深くはなかった。

「じゃあ小僧、また次の機会にな。」
軽く右手を背中に向けて振ると、桑原本因坊は歩きはじめた。
嘉威も慌てて後を追った。
追いながら振り向いて会釈すると、ヒカルはしきりに睫毛をしばたたかせてい
た。
(まだ緊張しているのか。それにしても、目、大きいんだな。)
余計なことに感心しながら、自分が共に食事をすることになったこの老人の囲
碁界における存在感を改めて思い知らされる気がした。



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