初めての体験+Aside 3


(3)
 駅に着いたとき、ヒカルが社に言った。
「塔矢の家、ここからちょっと歩くんだ。」
初めての割に妙に、詳しい…などというツッコミはいれない。ヒカルは地図を片手に先に
立って歩き始めた。ヒカルは地元だし、地図を見ただけで大方の距離がわかるのかもしれない。
 スタスタと歩くヒカルの後ろをゆっくりついていく。気のせいだろうか…。何か民家が
少ないというか…裏通りっぽい気がする。それでも社は黙ってヒカルの後を歩き続けた。
自分にとっては初めての土地だし、ちょっと違うんじゃないかと思っても口に出すことは
しなかった。何より、ヒカルと二人きりだと思うだけでドキドキする。しかも、夜道。
 “ちょっと”どころか“ かなり”歩いた頃、ヒカルがぽつりと言った。
「迷った……」
ちょっと待て!夜とは言え、何度も来た場所(ヒカルは初めてだと言っているが、
たぶんウソ)で、しかも地図まで持っているのに…?もしかして、進藤って方向音痴?
『メッチャ、可愛い〜』
外見が超可愛くて、碁がめっぽう強くて、それなのに方向音痴。
―――――アカン…!ますます好きになってしもた…。
 ヒカルがちょっと困ったような表情を浮かべている。
「あ…オレ、携帯もっとるで!何やったらコレで塔矢の家に電話……」
社は最後まで言えなかった。ヒカルが弁当を持った手とは逆の手を社の項にかけた。
そのまま、自分の方に引き寄せて軽く口づけた。



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