失着点・展界編 3


(3)
「そ、そりゃあそうだろ。だって、お前としばらく会えなくなるんだから。」
それは実際そうだった。アキラは協会の要請で明日から五日間程中国に行く。
交流会のイベントで日本を代表する若手棋士として倉田と共にお呼びが
かかったのだ。
このあとアキラは自宅に戻り、明日の基院会館での大手合いが済んだら
直接空港に向かう事になっている。
その大手合いが問題だった。
和谷は前回の大手合いを休んでいた。伊角が心配そうにしていた。
最近和谷と連絡がとれないのだという。アパートにもいないらしい。
ふいにアキラがヒカルから離れた。中途半端に泡がついているヒカルを
シャワーの前に立たせて、スポンジにボディーシャンプーをつけて泡立てる。
自分は大雑把に髪を洗った程度なのに、ヒカルの背中をていねいに
洗い始めた。
「へへ、…くすぐったいや…。」
肩から指先、膝のうらから足首と、それが済むと体の前を、母親のように
アキラは優しくしっかりとヒカルを洗った。
そして新たに手に少量のボディーシャンプーをとりヒカルの髪を泡立てに
かかった。ヒカルの家ではお目にかかれない高級ブランドメーカーの香りが
漂った。髪の1本1本までアキラの指にすき通され、ヒカルは夢心地になる。
…そんなに心配することじゃないさ。
そう自分に言い聞かせていた。



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