うたかた 3


(3)

「オイお前!!死にてぇのか!!」
 バイクから降りた男の怒鳴り声に、びくりと我に返った。
 一瞬のうちに起こった出来事を、ヒカルはすぐには理解できないでいた。ただ、バイクのタイヤとアスファルトの強く擦れる音が、自分の鼓膜をひどく振動させたのは覚えている。
「────…ッ」
 道路に座り込んだまま、ガクガクと震えの止まらない身体を両腕で抱きしめた。

 男がバイクのハンドルをもう少し遅く切っていたら、確実に重症だっただろう。道路に大きくJの字に付いたタイヤの跡が、事故のリアルさを物語っている。雨で濡れたアスファルトでバイクが転倒しなかったのも奇跡に近い。
 ヒカルの代わりに轢かれた傘からは、痛々しく骨が突き出していた。

「オイ、どっか怪我してんのか?」
 身動きしないヒカルの前に、男がしゃがみ込む。
「ん?お前…進藤じゃねぇか!!」
 いきなり名前を呼ばれ、驚いて頭を上げる。

 懐かしい顔がそこにあった。

「────かが…」



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