断点 3 - 4
(3)
それなのに、打っている時は集中していられたのに、終わって検討を始めたらもうダメだった。
何か言う塔矢の声と、石を置く指先に目を取られて、声は聞こえている筈なのに、なんて言ってる
かなんて全然聞こえてなかった。
「…進藤?どうした?」
「…え…?……うわっ!」
ふと顔を上げると、予想もしていなかったほど近くに塔矢の顔があって、慌ててオレは身体を後ろ
に引いた。塔矢は怪訝な顔をして、そんなオレを更に覗き込むようにして、言った。
「どこか具合でも悪いのか?なんだかぼうっとしてるし…」
「ち、違うんだ、塔矢、」
そんな目でオレを見ないでくれ。
無防備に近づかないでくれ。
胸が苦しい。
息をするのさえ苦しい。
どうしよう。言ってしまいたい。
「塔矢、」
オレは思い切って顔を上げて、塔矢を見上げた。
なに、と言う風に、塔矢の優しい目がオレを覗き込んだ。
ダメだよ。塔矢。
そんな目で見られると、オレは…
「塔矢、オレ…オレ…おまえが……」
「言わなくていい。」
言いかけたのを遮るように塔矢が言った。
小さく首を振って塔矢はオレに向かってすっと手を伸ばしてきて、そしてさっきまでオレが見惚れてた
指先がオレの唇に触れた。
カアッと顔が熱くなるのを感じた。心臓がドキドキいってて、どうしたらいいかわからなかった。
そんなオレを見て塔矢がふっと目を細めた。塔矢の手がそのままオレの顎を軽くとらえ、にっこりと笑っ
たキレイな顔が近づいてきて、思わず、キスされる、そう思ってオレはぎゅっと目を瞑った。
(4)
でも、オレを襲ったのは、そんな可愛らしいものじゃなかった。
何が起きたのか、一瞬わからなかった。
気が付いたら、オレは無様に転がっていた。ほっぺたが痛くって、思いっきり平手で叩かれたんだっ
てわかった。何がどうなってるんだか訳がわからなくて、呆然としたまま、転がっていた。
影を感じて見上げると、塔矢がオレを見下ろしていた。逆光になって、表情がよくわからない。
わからないけれど、とても怖かった。
大失敗した。最悪だ。そう思った。
あんな事を言い出して、塔矢を怒らせてしまった。
最悪だ。
そう思って怯えながら塔矢を見上げた。
けど、こんなのはまだまだ最悪の内には入ってなかったんだって、その時にはわかっていなかった。
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