Linkage 3 - 4


(3)
 ざらついた舌はいつも苦く、辛い。
口腔内に迎え入れた舌の感触は、初めて唇を重ねた時から何ら変わることが
なかった。
その舌がアキラの舌を誘うようにねっとりと動くと、アキラも素直に応じて
自分の舌を絡ませる。
 フローリングの床の上に組み敷かれたアキラは、時折肩胛骨が音を立てて
床にぶつかると、痛みから僅かに眉根を寄せた。
男はそんなアキラの様子を知りつつも、構う気はないと言わんばかりに更に
アキラの口腔の奥へと舌を滑り込ませた。
 湿った音を立てながら、もうどれほどの時間、互いの口腔を貪り続けて
いるのだろうか……、アキラはふとそんなことを考えた。
先程まで室内を照らしていた夕日は既に沈み、辺りは闇に支配されている。
(この調子だと今夜は長くなりそうだな……)
絡み合った舌を通して流れ込んでくる男の唾液を躊躇することなく飲み下し、
さらなる行為を求めるかのように相手の背中に腕を回しながら、そんな
考え事をする余裕のある自分に気付き、アキラは心の中で苦笑した。


(4)
 ひとしきりアキラの口腔内を堪能した男は、その感触を惜しむかのように
重ねていた唇をゆっくりと離した。
僅かに開いたアキラの唇の間から覗く舌と、男の唇との間を既にどちらの
ものともわからなくなった透明な唾液が細い糸を引く。
 組み敷いたアキラに体重をかけることのないよう注意しながら上体を起こすと、
男は傍らに乱雑に脱ぎ捨てたオフホワイトの上着のポケットを探り、赤い箱の
煙草とライターを取り出した。
慣れた手つきで一本取り出し火をつけると、彼は床に脱ぎ捨てた上着のすぐ
横に置かれた眼鏡を取って立ち上がった。
サイドテーブルに眼鏡を置くと、既に緩めてあったネクタイを片手で外し
ながら、もう片方の手でサイドテーブル上のライトのスイッチを入れる。
 その間アキラは男の行動に関心を示すでもなく、床の上に仰向けになった
まま、じっと見たくもない天井を見つめていた。



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