白と黒の宴4 3 - 4
(3)
団体戦としては経験や選手の実力のバランスから中国が優勝するだろうという大方の予測の中で、
これが個人戦であれば間違いなく彼がアジアの若手のトップだと注目されているのだ。
会場内で漏れ聞こえた評判で、さすがに社もいかに日本がいろんな意味で国際大会では
まだまだなのだと実感する。そんな日本がどれだけ他国に食らい付いていけるか、という部分を
見られるのだ。
「まあヘボな事はできんな、とにかくがんばらんと」
ヒカルに話し掛けたつもりだったが返事はない。社は溜め息をついてもそもそと食べ物を口に運ぶ。
ヒカルの心境は社やその周囲の者らとはかなり違ったものだろう。日本がどうとかそういう意識は
念頭になく、あるのは高永夏個人に対する敵対心のみだ。
(進藤の奴、ずっとこの調子や。せやけどそんなに敵意剥き出しやとええ結果出せんとちゃうか…)
社は助けを求めるようにアキラを見るが、その時アキラもまた、ほとんど料理に手をつけず
ヒカル以上に他者を寄せつけない緊張感を醸し出していた。
何故かヒカルに視線すら合わそうとせず一言も話し掛けようとしない。
社は更に大きく溜め息をついた。
合宿の間に多少チームとしてのまとまりが出て来たような気がした瞬間もあったのだ。だが結局
社にはこの2人の関係が良くわからなかった。ヒカルが非常にマイペースな人間だということは
理解できるが、アキラもまた評判で聞いていたほどには礼儀正しく人当たりが良い人間という
わけでもなさそうだ。
(ホンマにこいつ、目上や大人に対しての時とオレらに対する時の態度が違うんやなあ…)
食べ物を頬張りながらアキラを見てそう考える。
(4)
(まあ、そんだけ同年代のオレらの前ではこいつなりに素直になっているんやろな。そう思おとこ)
もちろん、どんな相手に対しても同じ調子のヒカルのほうが好感が持てる。何かと危なっかしくて
ついフォローしたくなる。
それとは全く別の感覚でアキラも放っておけない。アキラもある意味危ういバランスの人種だ。
(えらいチームに入り込んでしまったもんや。…ある意味精神修行や…。)
社はヤケ食いのように胃に食べ物を押し込んでいった。
(…そやけど…)
今まで関西棋院の棋士の中で社自身多少浮いた存在だった。ヒカルやアキラのようなタイプは
社の周囲に居なかった。
この2人と行動を共にする事は社なりに悪くないと感じていた。時々変な行動や発言で
呆れる事はあるが、ずっと以前からの友人のような気安さがあった。
しばらくしてステージの上にはそれぞれの国の選手の代表が並び立った。
(あれが高永夏か。何や無駄に存在感のある派手な兄ちゃんやな…)
ヒカルの強い視線に倣うようにして社もステージ上のその青年を見つめた。
その視線の中に同時に日本選手代表として並ぶアキラの姿も捉える。
(…だが、オレの目標は…とりあえずあいつや…)
社はアキラを見つめた。
ステージ上の照明のせいか、いつもと比べてアキラの顔は青白く見える。
それでも決して隣の高永夏に見劣りすることなく凛とした存在感を放っていた。
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