追憶 3 - 4
(3)
「塔矢、」
「なに?」
できるだけ穏やかな声になるように、そっと応えたのに、
「さっきさ、外見ながら、誰の事考えてた?」
言われて、ボクは手を止めてしまった。
応えられずにいると、身体に回された腕にきゅっと力がこもり、彼はまたボクの肩に顔を埋めてくる。
「塔矢、」
「……どうしてボクの考えてる事がわかるんだ。」
「わかりたくもねぇよ、オマエが他の男のこと、考えてるなんて。でも、」
ボクは少しだけ怯えていたかもしれない。こうして彼といる時にあの人を思い出してしまう事が、彼に対
する裏切りと思われてしまうのではないかと。それなのに、なぜだか、ボクがあの人のことをどう思って
いるのか、知って欲しいとさえ、ボクは思っていた。そう思うことが、尚更、彼に対して悪い事をしている
ような気もして、何だか混乱してきたボクに、また彼の声が届いた。
「塔矢、おまえさ、」
言いかけて彼は一瞬言葉を飲み込む。
なぜだかボクも緊張して、彼の言葉の続きを待っていた。
「おまえ、あいつの事、好きだろう。」
いきなりストレートに言われて、本当にボクは一瞬、息をする事さえ忘れてしまった。
「おまえの気持ちを疑うわけじゃない。けど、オレとは別に、やっぱりあいつの事好きだろう?」
怒ってるのでも、責めているのでもない、静かな声だった。ずっと言おうと思って言いあぐねていた
事をやっと言えた、そんな感じの声だった。
本当に、どうしてそんなにボクの事がわかるんだ、キミは。
そんなにずかずかと、ボクが認めたくないようなことまで言い当てなくたっていいじゃないか。
(4)
「……うん。」
ようやく、なんとかやっと、ボクは返事をかえす。
「そうだね。きっと。ボクにとってキミは誰よりも何よりも、ただ一人"特別"だけど、」
確かに、キミの言う通りに、
「もしかしたら、ボクは自分で思っている以上にあのひとが好きだったのかもしれない。」
逃げちゃ駄目だよ。だってキミが言い出した事だろう。
とても、自分勝手なことを言っているのはわかってる。
こんな事を言うのは、キミにも、あの人にも、ひどい事なんだろう。
でも、それでもキミに聞いて欲しいんだ。だってこれもボクなんだから。
それがどんな事でも、全部を受け止めて欲しい。そう思ってるボクはひどく我儘で、キミに甘えてる
だけなんだって、本当はわかってる。ただ――こんな、肌寒い雨の日だから、甘えさせて。
「考える事があるよ。もしもボクがキミに会わなかったらボクはどうしてたろうって。」
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