ウェルシュ・コーギー 3 - 4
(3)
(塔矢、遅いなぁ…)
あれから5分も経つのにまだ帰ってこない。
だんだんムカついて来た。
いつまで待たせるんだよ!
いつも待ち合わせで待たせるのはオレだけど、だからと言って待たされるのはキライなんだ。
ひとりにされるのも、ほっておかれるのもキライだ。
「もう何してるんだよ!塔―――…うわっ!!」
待ちきれなくて様子を見に行こうと、障子を開けて廊下に出ようとした瞬間、
何か茶色いモノがオレめがけて飛び込んで来た。
驚いてオレは思わず後ろに倒れ込んでしまった。
頬にあたたかい感触がする。
「何!?」
……ペロペロ舐められてる?
それは三角の耳をして、黒目がちで円らな瞳をした、茶色の毛並みの動物だった。
「……犬…?」
「進藤、大丈夫?」
塔矢が後を追うように帰ってきた。
「何…コレ?」
呆然としたオレを見て、塔矢はくすりと笑って
「ウェルシュ・コーギーっていうんだよ。キミがこの前、公園でこの犬を見て、
可愛いって言ってただろ?」
体を起こしてまじまじとよく見ると、それは可愛いキツネみたいな顔立ちをした
足の短い子犬だった。
(4)
「うわ〜〜〜〜!」
人懐っこそうな顔をしてこちらを見つめる仕草が何とも愛らしい。
短い足をふんばってヒカルに乗りかかり、これまた短い尻尾を振っている。
「どうしたの?この犬」
「母の親友の子犬なんだ。1ヵ月ほど海外に行くことになって
その間だけ家で預かることになったんだ」
「へーっ!いいなぁ!オレこの犬大好き」
「ふふ。そう言うと思ってキミに見せたかったんだ。家も両親は留守がちだし
犬を飼うことはちょっと無理だけど、1ヶ月くらいならちょうどボクの都合もいいし、
引き受けることにしたんだ」
「いいな〜、いいな〜」
すっかりその犬が気に入って両手で抱き上げると柔らかい毛並みに顔を埋める。
犬も大人しくされるがままだ。
「暇があればいつでも遊びにくるといいよ。今から1ヶ月は家にいるからね」
「うん!来る!遊びにくる!」
塔矢の策略に見事はまってる気がしないでもなかったが、まいっか。
だってここに来ればこの犬と遊べるんだもんな。
「わん!」
またペロペロと頬を舐められた。
「うはっ、くすぐってェ」
「コラ、ポチ、こっちへおいで」
見かねて塔矢が子犬を抱き上げてくれた。
「ポチ…ってオマエ…。この犬ポチっての?」
「……。母にこの子の名前を聞いておくのを忘れたんだよ」
「だからってポチはねーだろ…」
「しょうがないじゃないか。他に思いつかなかったんだ」
は〜っ、とオレは盛大に溜息をついた。
本当に塔矢って奴は碁以外のセンスはゼロだよな…。
「ポチ、ポチ。ほら、ちゃんとシッポを振ってるじゃないか。本人も納得してるよ」
「…まぁいいけどさ…」
その日は「ポチ」とひとしきり遊んで、そのまま帰った。
碁も…その…エッチなこともしないで帰るなんて最近ではすごくめずらしかった。
でも、後から思えば、それは「嵐の前の静けさ」に他ならなかったのだ。
|