sai包囲網・緒方編 3 - 4


(3)
 恋人である進藤ヒカルから一泊二日のセミナーで緒方と一緒になると
聞かされ、アキラはひどく不安を覚えた。思わずボクが代わりに行こ
うかとまで切り出しそうになる。
「大丈夫だって、緒方先生と二人きりってわけじゃないんだしさ」
 そう言うヒカルだが、実は自分よりも不安がってるのが見て取れて、
アキラは端正な顔を顰めた。
「でも・・・」
「緒方先生は公開対局があって忙しいと思うし、オレにかまってる暇なん
てないと思うよ」
「そうだね」
 ここでアキラが何を言ってもヒカルを不安がらせるだけだ。見た目は
元気いっぱいなヒカルだが、ときどきあらぬ方向を見上げたまま考え込
むような表情をしていることもある。そんなときの彼は、ぎゅっと抱き
締めてその存在を確かめてみたくなるほど、危うい感じがした。
「進藤・・・」
「塔矢?」
 小さなヒカルの頬を両手で挟み込むようにしてキスを贈る。
「ん・・・」
「ん、ふ・・・」
 忍び込んで来る舌先に、おずおずとだがヒカルもキスを返す。
 佐為が見てるのに恥ずかしいなと思ったのは、最初の何度かだけで、
今はすっかり馴れてしまった。さすがに二年以上も佐為と同居していた
わけではない。一々恥ずかしがっていたのでは、トイレにも風呂にも行け
なくなってしまう。佐為を蔑ろにしているわけではなく、ヒカルにでき
る唯一の自己防衛だった。
 それに、これから先、佐為とはずっと一緒に生きていくんだもんな。


(4)
 アキラには強がって見せたものの、ヒカルもやはり不安だった。
 病院で、自分に迫った緒方の剣幕はすごいものだった。今までアキラ
にさえバレなければと思っていたが、そうは簡単にいかないようだ。
 それにここのところ佐為の様子が変だ。幽霊だというのに喜怒哀楽が
激しいのは以前からだが、最近は酷く情緒不安定だった。
 いったいいつからだろうと振り返ってみると、塔矢名人との一局の頃
だと思い当たった。念願の名人との対局が叶ったというのに、何が不満
だっていうんだ。
『もうすぐ私は、消えるんです!』
 おまけに祖父の蔵の中ではこんなことを言い出す始末で、ヒカルは思
わずため息をつきたくなる。幽霊とはいえ千年も過ごした佐為が消える
なんて考えもつかない。佐為は自分の寿命が費えたらまたどこかの碁盤
に眠って四人目を待つ。虎次郎(秀策)の時代とは違って、今の日本人
は長寿だから、それすらもっとずっと先の話。ヒカルはそう思っていた。
『佐為、お前が落ち込んでると、オレまで気が滅入って来るんだからな』
『・・・』
 佐為と会ったばかりの頃は、佐為の感情がダイレクトに伝わってその
激しさに小学生のヒカルは耐えられず嘔吐までしてしまったものだが、
ヒカル自身が馴れたのかそれとも佐為が感情をセーブできるようになっ
たのか、以前ほど佐為に左右されなくなった。
 それが、いいことばかりではないことにヒカルが気がつくのは、もっと
先になる。
「塔矢に土産でも買って行ってやろっかなー」
 そう思うと、初めての泊まりでの指導碁に、ヒカルは緒方からの追求
に不安を感じながらも、少しだけ気持ちが暖かくなるのだった。



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