金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 3 - 4


(3)
 「なあ、何とか言えよ…」
黙っているアキラに焦れて、ヒカルが催促する。
 そんなことを言われても、何を言えというのだ。似合っているとか、可愛いとか言えばいいのか?
冗談ではない。そんなこと死んでも口に出せない。

 ヒカルが小さく溜息を吐いた。
―――――ちぇっ……みんな似合うって言ってくれたのに………
少し拗ねたような、呟きが耳に入った。
みんな!?
みんなって誰!?
アキラは血相を変えて、ヒカルに詰め寄った。
 一瞬ヒカルは呆然として、それからすぐにニヤリと笑った。しまったと思ったときは、
もう遅かった。
「ココじゃ何だから、向こうのベンチに行こうぜ。」
 ヒカルはニコニコ笑って、アキラの手を引いて歩き出した。


(4)
 強引に手を取られて、アキラは戸惑っていた。ヒカルはどういうつもりなのだろう。
こんな風に手を握って、まるで…………まるで、恋人同士みたいじゃないか……。

 「よっと!」
ヒカルは、ベンチにドカリと座った。自分がスカートを穿いているという自覚がないのか、
大きく足を開いている。
 その大股開きに会社帰りのOLやサラリーマン達がギョッとして―中にはニヤニヤと
イヤらしい視線をヒカルに浴びせながら―急ぎ足で通り過ぎていく。
 「進藤、足!」
アキラは、慌ててジャケット脱いで、それをヒカルの膝の上に掛けた。
「いいよ……別に見られても困らねえモン……」
そう言いながらも、ジャケットは膝の上に掛けられたまま。
 それより――と、ヒカルはアキラの耳元に口を近づける。

――ドキッ

瞬間、心臓が止まりそうになった。



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