身代わり 3 - 4
(3)
《ほらヒカル、先端のここを指の腹で押さえてごらんなさい》
すでに精液を流し始めているそこを、ヒカルは言われたとおりに愛撫する。
「くふぁ……っ」
快感がヒカルの身体につぎつぎと襲ってくる。
《私の動きに合わせて……》
佐為の濡れた声が頭のなかで響いた。
ヒカルは目をつぶりそうになるのをこらえて、佐為の手の動きを必死になって追った。
ひっきりなしに掠れた声が口から漏れる。ヒカルは変声期を迎えており、昔に比べてかなり
低くなっている。だが艶めかしさはいっそう増したように佐為は思えた。
ヒカルは将来、まぶしいくらいの若者になると佐為は確信している。
そしてそのヒカルの一番近くにいるのは、他ならぬ自分だ。
《ヒカル、手を……》
シャツを上げるよう示唆する。ヒカルがまくりあげると、とがった乳首が見えた。
きれいな薄桃色をしたそれを佐為は咥えた。
舌でそっと舐め上げる。ヒカルの味を感じることができないのがたまらなく残念だった。
ヒカルに見せ付けるように、佐為は何度もそこを己の舌と唇でねぶった。
「や、ぁぁっ、オレ……さ、いっ……もっ」
視覚だけでも刺激的で、性に関してまだまだ幼いヒカルはさらに煽られた。
手のなかのペニスはもうじゅうぶん膨らみきっていた。佐為はそれを解放すべく、軽い音をたてて、くちづけた。ヒカルにとって触感など問題ではなかった。
「ぉ……うん、くっぅ、んん!」
ヒカルは吐精した。指の隙間から精液があふれ、床にこぼれおちた。
薄い陰毛だけでなく、その奥の秘門までが濡れてしっとりとしている。
だがそれらをぬぐう気力もなく、ヒカルはベッドに倒れこんだ。
せわしなく息をついていると、佐為がおおいかぶさってきた。その重みは感じられない。
それが少し淋しかった。
(4)
ヒカルがうるんだ瞳を向けてきた。
「……ん、さい……」
舌足らずに呼ぶ。それがどんなに佐為の心をかき乱すか、わかってはいないのだろう。
ヒカルがこうして甘えてくるのは、自分を信頼して安心しきっているからだ。
それが時おり佐為を苦しめる。
《……なんですか?》
「佐為は、オレみたいにはならないの?」
またこの質問か、と佐為は軽く苦笑した。答えはいつも同じだ。
《身体がありませんから》
ヒカルは濡れていない左手を佐為の下肢にやった。その無邪気な仕草に佐為は緊張する。
股間に触れてみるが、ヒカルの手は空をかいたのと同じ状態だった。
だが手を動かして揉んでみる。すると不思議なことに、本当にしている気分になってくる。
一方の佐為は、そこが変化するはずはないのに、うろたえていた。
身体をずらしてヒカルの手から逃れた。
《昔は、ヒカルみたいになったこともありましたよ》
「ふーん、じゃあ」
セックスは? そう聞こうとして、ヒカルはやめた。
いつもそうだ。どうしても尋ねることができない。理由はわかっている。
もし「ある」と答えられたら、イヤだからだ。自分だけの佐為でいてほしいのだ。
しかし、そう思ってしまう自分を嫌悪する感情もあった。
それに佐為が嫌がるかもしれない。こんな身勝手で子供っぽい独占欲など持った自分を。
(佐為にきらわれるのは、イヤだ)
少し気持ちが沈んでいるのに、佐為は能天気な声で話しかけてきた。
《さあさあ、後片付けをなさい。いつまでもそんな格好でいると身体を壊しますよ》
ヒカルは飄々とした様子の佐為に腹が立った。
(どこの世界に、オナニーの後始末を言われるヤツがいるんだ。ちぇっ)
自分ばかり変な気分になって、バカみたいではないか。
少しふてくされながらもヒカルはティッシュで汚れたところを拭いて、服も着なおした。
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