パッチワーク 3 - 4
(3)
水曜日
対局は大方の予想を裏切って塔矢が早碁で仕掛けてきた。予想していな
かったらしい進藤は顔色を蒼白にしながら丁寧に対応していた。打ち掛
けになりいつも昼を取らない塔矢だけでなく進藤も昼食を取らなかっ
た。再開から1時間後、控え室での検討では今のところ塔矢有利であっ
た。だが会場に響いた「ありません」の声の主は塔矢であった。立ち会
いの和谷が声をかけようとしたとき進藤の体が崩れた。
ホテルの車で地元の病院に運ばれた進藤の病名は俗に言う盲腸炎であっ
た。なんでも前夜のうちに本人がホテルに対局後すぐに手術を受けられ
るように病院の手配を依頼していたと後日棋院の職員にきいた。
(4)
土曜日
和谷は当日は後始末におわれ病院に寄ることもできなかったので三日後
に進藤を病院に見舞った。妻には駅に着いたら果物店で詰め合わせを買
うように言われたのを思い出したのは病室のドアの前に立ってからだっ
た。「ままよ」病室のドアを開けるとベッド脇に幼児を抱いた同年代の
女性と子どもが3人、ベッドの中の進藤と話をしていた。「よぉ、元気
そうだな」「あ、和谷、迷惑かけたな。すまない。」「ご心配をかけま
して」「家内のあかり」「お父さんの友達の和谷さん」こどもたちも
いっせいに和谷に挨拶する。進藤が結婚をして十年以上になるが家族の
顔を見たのははじめてであった。少女のような雰囲気の妻、朴訥な感じ
の兄、母親にそっくりな弟、父親にそっくりな姉、おかっぱ頭の妹。
「じゃぁ、子供たち預けたら戻ってくるからおとなしくしててね」「何
のおかまいもできなくてすみません。」あかりと子供たちは病室を出て
行き、病室は和谷と進藤だけになった。「昨日、棋院から事務方が来て
いろいろ教えてくれたけど対局の時にはいなかったやつだからあの後ど
うなったのかは知らないって言うんだ。」
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