失着点 3 - 4


(3)
「いつからこうなったのかな…。」
唇が離れるか離れないかの時に、互いの熱い吐息が混じる中で
ヒカルはつぶやいた。アキラからの返答は、ない。
アキラは再び顔を寄せて来たがヒカルは制した。
アキラが怪訝そうな表情になる。
ひと固まりの熱情が去って、ヒカルは現実を取り戻し始めていた。
このままこの場所で続きを続けるのは気が引けた。
ここは碁を打つところだ。
怖じ気付いたと責められればそれまでだったが。
「…うちに、来る?」
ヒカルの迷いを察したようなアキラの言葉にヒカルは戸惑った。
けど、アキラの家は…。
アキラはポケットからキーを一つ出した。
ヒカルの心臓がドクリと脈打つ。
「この近くに、借りたんだ。…来る?」
わずかばかりの歯止めが、ヒカルの中で弾け飛んでいく。
もはやアキラの目に完全に捕らえられ、引き返せなくなっていた自分がいた。


(4)
本当に碁会所から歩いてすぐのところに、アパートはあった。
少し古い素っ気のない鉄筋コンクリートの建物。エレベーターもない。
元名人の息子には似つかわしくないようだが、妙にアキラらしかった。
暗くて重い色のドアの向こうにはキッチンとバス、トイレがあり、
6畳の和室、一番奥に同じ広さの洋室。窓際にベッドが見えた。
ヒカルは玄関で立ち止っていた。アキラが奥の部屋で背広の上着を脱いだ。
「どうしたの?上がらないの?」
わざとつっけんどんな言い方をしているようだった。
「あ、ああ。」
キッチンに上がったヒカルは、たいして何もないその部屋のテーブルの上に、
タバコと灰皿が置いてあるのを見て思わず素頓狂な声をあげた。
「た、たば…!塔矢!?」
「別に驚くことでもないだろ。時々寝る前とか…さ。」
そういえば、和谷も独り暮らしを始めてから時々吸っているのは知っていた。
もちろん師匠とかには絶対内緒だったが。
「吸ってみる?タバコの煙って、苦手だったっけ。」
アキラが小馬鹿にしたように笑ったように見えてヒカルはムッとした。
「そのくらい平気だよ。」
箱から1本抜き取ってヒカルが口にするとアキラが
ライターで火を点けてくれた。



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