ウィロー 3 - 4


(3)
「きーめた!柚にしよっと」
くやしかったら言ってみな♪・・・・・・包丁片手に、ヒカルタンのリサイタルはつづく。

「あれ?くっついちゃって切れないよ」
悪戦苦闘をするヒカルタンを見かねて、オレが切ることにした。
「糸を使うといいんだよ」
糸を使って、切り始めたオレの手元をヒカルタンが感心したように見つめている。
そんなに見ないでくれ照れるじゃないか・・・
緊張で手が震えそうになる。が、かっこわるいところをヒカルタンに見せるわけにはいかない。
ヒカルタンの気を何とか逸らさなければ・・・

オレはういろうを切り分けながら、ヒカルタンに訊ねた。
「ヒカルタン、どうして柚にしたの?」
大きな目をキョトンと見開いて、それからすぐに輝かんばかりの笑顔を向ける。
おお!眩しくて目が眩む。
サ、サングラス・・・サングラスはどこだ?ゴーグルでもイイ。
「だって、お星様みたいな色で可愛いし、おいしそうじゃん」
ぐはぁ!可愛すぎる。オレは胸を射抜かれた。
キューピットの矢のような生やさしいものではない。
槍だ!『ヒカルラブ!』と、刻まれた極太の槍だ!
「ヒ、ヒ、ヒ、ひかるたぁん!!!」
辛抱堪らなくなったオレは、ヒカルタンに飛びかかった。


(4)
「あっ!何するんだよっ」
オレに押し倒され、抗議するヒカルたんの可愛い声が、オレの耳をくすぐる。
「な、何って、ういろう食べる前にヒカルたんが食べたくな…」
はぁはぁ息も荒く、ヒカルたんの唇に自分の唇を押し付けようとすると、
むちゅっ、と、ヒカルたんが手のひらでオレの口を塞いだ。
「ダメだよう。ういろう食べるのが先。オレを食べるのはその後、ゆっくりしろよ」
…ゆっくり。ゆっくり、てことは、ゆっくりヒカルたんを賞味していいってことだな……。
………!。やった、やったぞ。ヒカルたんのお許しが出たんだ!
許しが出たのに、無理矢理ことを進めて嫌われるのは、アフォのすることだな。
よーし、ここは紳士的に、ヒカルたんの口元に付いたういろうのかけらを、
「お弁当、ついてるよヒカルたん」とか言いながら、オレの甘い舌先で舐めとってやり、
そのまま、キスをして…。はぁはぁ。
「うわー、これオモシレー!」
はぁはぁ妄想しているオレの横で、指に糸を巻き、ういろうを楽しそうにヒカルたんは切り始めた。
オレは切れてしまった自分の指の糸を捨てて、ヒカルたんの手元を覗き込む。
「はい、これお前の分な」
きれいに切れたういろうを、皿に分けてオレに寄越すヒカルたん。
見ればヒカルたんは、自分のういろうをサイコロより少し大きめに切ってしまっている。
オレは楊枝を取り出し、そのういろうをヒカルたんの口元へ運んだ。
「…あーん」
ヒカルたんは小さい口を開けて、幼い子供がするように目を閉じた。
オレの目には、ヒカルたんの赤い舌の動きが、オレを誘っているように見えた。



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