四十八手・その後 3 - 5
(3)
あからさまにがっかりし過ぎたみたいで、塔矢の目つきが険しくなっ
た。だから、お前、それが怖いんだって。
「君は、君は、お父さんと僕と、どっちが目的で来たんだ?」
それは、塔矢先生・・・なんて言ったらまずいよな。
「そんなの、塔矢に決まってるじゃん」
「そ、それは、ありがとう(///)」
あはは、何か赤くなってるよ。こんなとこは憎めないんだよなー。
お母さんに持たされたお菓子を渡して、塔矢に煎れて貰ったお茶を飲
みながら、一局。ふー、塔矢と打つと、手が抜けないっていうのかつい
本気になっちまって、すげー疲れる。休憩しながら、最近のタイトル戦
の棋譜の話になった。
そういや、この前の塔矢先生と緒方先生の十段戦第五局の棋譜、結局、
見てないままだったな。倉田さんは、いい碁だったって言ってたけど。
「その棋譜なら覚えてるから、並べてあげるよ?もうネットにも載って
るから、プリントアウトしてあげてもいいけど」
「あっ、ほんと?」
貰って帰れば、佐為も喜ぶもんな。俺も勉強になるしさ。
「見たい?」
「うん、見たい、見たい」
頷いてる俺の隣で佐為も目を輝かせてる。俺の勢いに苦笑した塔矢が
手慣れた仕種でパソコンを立ち上げて、さっと目当ての棋譜を探して、
印刷してくれた
「へぇ、これか」
三人で棋譜を覗き込んだとき、呼び鈴、塔矢の家のはチャイムって感
じゃないんだよな、が鳴った。誰か来たのかな。
(4)
ちょっとごめんと言って一度、出て行った塔矢はすぐに戻って来た。
「進藤、ちょっと時間がかかりそうなんだ。悪いけど、待っててくれる
かな」
「いいよ。棋譜でも並べてるし」
佐為と打っててもいいしな。と思ったら、
「パソコンも自由に使ってかまわないから。ネットにでも繋いでみたら」
「えー、でも、電話代とかかかるんだろ?」
「常時接続だから、大丈夫だよ」
じゃあと言って、塔矢は出て行った。情事接続って何だろ?
まっ、塔矢が大丈夫って言ったんだからいいか。
えーと、検索サイトに行ってっと。何を調べようかとキーワード欄に
カーソルを合わせると、塔矢が以前打ち込んだらしい単語が出てきた。
確か、クッキーとかビスケットとか言うんだったよな。
さすが塔矢。「囲碁」と「碁」の文字がずら〜と並んでる・・・ん?
これ、何だ?ずーっとスクロールをして行った先に、「四十八手」という
文字があった。
『「よんじゅうはちて」って何だ、佐為、お前、知ってる〜?』
『さあ、私も初めて見ました』
『佐為も知らないってことは、新しい布石なのかな?よし、検索だ!』
あっ、いっぱい引っ掛かった。けっこう知られてる手なのかな。俺っ
てまだまだ勉強不足だよな。和谷にも、何でそんなこと知らねぇんだよ
って、しょっちゅう怒られてるしさ。塔矢が調べたくらいなんだから、
きっといい手なんだろうな。
わくわくして画面が変わるのを待ってると、何だこれー!?というのが
現れた。うわっ、うわっ、うわっーって感じ。見るところを間違えたの
かと、他のサイトを見てみても、同じようなページかもっとHなところ
に行っちゃうよ。何でだー!?
(5)
『ヒカル、塔矢はこんなものを見てるんですか?』
『だって、検索したらここに来ちまったんだもん』
「よんじゅうはちて」じゃなくて「しじゅうはって」って読むのか。
そりゃ俺だって男だから、こういうのに興味がないってわけじゃない
けど、あの塔矢がって考えると、似合わねーって思っちまう。
でも、良く見ると、これとこれって、俺が塔矢にやられたやつだよ。
うわー、何だかこうやって改めて見ると、すげー恥ずかしい。俺の知ら
ない世界って感じだよ。
これを調べてたってことは、まさか、塔矢の奴、これ全部を制覇しよ
うなんて考えてないよな。でもなー、塔矢って確かAB型だろ?AB型
って完璧主義だって聞いたことがあるような、ないような。うーん。
「進藤、ごめん。お待たせ」
帰って来た塔矢に、慌ててページを落とす。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない、何でもない」
「そう?」
じゃあ、さっきの棋譜の検討でもする?と碁盤の前に座った塔矢に、
ほっとした。あー、何か、刺激の強いもんを見ちゃったよー(^^;
『ヒカル、しっかりして下さい』
『だって、佐為ー』
『よそ事を考えてると、また塔矢にふざけるなーって怒鳴られちゃいま
すよ』
そうなんだけど、気になっちゃって、ダメだよー。
「進藤?具合でも悪いの?」
「えーと、あの・・・」
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