敗着─交錯─ 3 - 5


(3)
「アキラとは、もういいのか?」
我ながら偽善的なことを訊いた。
「・・・・・・・・」
少し顔を横に向け、また水槽の方へ向き直る。
「・・・・あのことなら、もういいぞ」
「・・・・?」
椅子を回した進藤の、驚いて困惑した顔が見えた。
「アキラの代わりは、もういい。あれは反故だ」
「ホゴ・・・」
「もうあれきりだ。アキラの部屋へ行くなり何なりお前の好きにすればいい。オレはお前達二人に付き合う気はない。帰るんだ」
何かを言いたそうな口の動きを無視して続ける。
「もう、ここへは来るな」

沈黙が流れた。
進藤は俯き、立てた足の爪先をいじっていて表情が読めない。
「帰れ。親御さんも心配してるだろう」
”先輩棋士”らしく諭す。
「・・・・泊まってくるって言ってきた・・・・」
「・・・何処にだ」
靴下の先を引っ張りながらもそもそと答える。
「オレと同期の、プロ棋士。今日、一緒にいた奴、そいつん家。そいつ、一人暮しだから」
昼間の光景が頭に浮かぶ。隣にいた同じ年恰好の少年か。
(───お泊まりしにいく女子高生か、おまえは・・・)
呆れてものが言えなかった。
「他に行く当ては──」
「緒方先生っ」
急に立ち上がると言った。


(4)
「オレ…」
顔を上げ、何かを言おうとしたがまた俯く。後が続かないようだった。
「…とりあえず今日は家に帰れ。送っていこう」
車のキーを取り進藤の脇を通り抜けようとしたその時
「先生、」
進藤の腕が首に絡みついた。ぶら下がるような格好で抱きつかれ、思わずバランスを崩しそうになる。
「進藤、…帰れ」
言葉とは裏腹に、引き離そうと肩を持った手に力が入る。そのまま背中に摩るように滑らせて、背伸びをしている体を支えた。
「…進藤…帰るんだ…」
髪の毛が顎に触れシャツの襟元に吐息がかかる。
「オレ、帰らない、ここにいる」
駄々をこねるように縋りついてくる。
進藤の頬が顎をかすった。
「帰らない…」
繰り返された囁きに理性を失いかけた。
首に回された腕に力が込められ、進藤の顔が近づき幼いキスを受け入れる。
「…帰れ…」
吐息が重なり唇を吸い合う。
小さい体を抱きしめ膝を折り、崩れるように床に倒れ込んだ。


(5)
進藤の体は前と同じ味がした。
「ん…」
足を絡ませると、硬いものが当たった。
「早いな…」
「るせえよ…」
抵抗されないのをいいことに、学生服のボタンに手をかける。
「…今度は、破るなよ…」
「分かってる…」
慎重に脱がせると、もう一度顔を見た。
「先生も、脱いでよ…」
頬を染めてワイシャツに手を伸ばしてくる――が、
「……」
ネクタイのノットに指を挿し込み困惑していた。
「ネクタイには慣れてないのか…」
(もういいよ)と進藤の頭をなで、軽く手を握って離させた。
片手でネクタイをほどいて、遠慮のない視線を感じながらシャツのボタンを外していく。
肌を露にすると、飛びつくようにしがみついてきた。
少し鳥肌が立つような感覚と、人肌の温もりに包まれる。
「向こうへいこう…床は冷える」
「ん…」
素直に頷くと、おとなしく抱きかかえられた。

シーツが手の平にあたり、その上に進藤の髪が敷き込まれる。
「こら、離せ…」
抵抗はしなくなったが、まだ不安なのかぎゅっとしがみついてくる。
訳のわからない感情が湧き上がり、また消える。
体重をかけないよう注意して抱き合い、頬をなでると閉じられた瞼を指でなぞった。



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