金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 30


(30)
 その夜、アキラは一人で眠った。何も置いていない窓の下の座卓に背を向けて、頭から布団をかぶった。

 「アキラさん、金魚さんにごはんをあげたの?」
靴を履こうとしていたアキラの背中に母が声をかけた。
 アキラは黙って首を振った。
「お約束したでしょう?」
咎めるような母の口調に、アキラは余計に意固地になった。ランドセルを乱暴に掴むと、
そのまま「いってきます」も言わずに飛び出した。

 『お母さん、金魚にごはんをあげてくれたかなぁ…』
アキラは学校についてからも、ずっとそのことばかり考えていた。授業も集中できなくて、
先生にあてられても答えられないことが二回もあった。
 今、目の前には美味しそうな給食が並べられている。だけど、アキラは箸が進まなかった。
溜息を吐いて、また考える。
『大丈夫。お母さんはちゃんとごはんをあげてくれているよ…』
結局アキラは、給食を半分以上も残してしまった。



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