社妄想(仮) 30
(30)
身を投げ出して、荒く息を吐くヒカルに手を伸ばしかけて──止めた。
ヒカルは敏感だから、今下手な刺激を与えるのはかえって身体を苛む事になる。
時々身体をぶるっと震わせては息を詰め、暫くの沈黙の後にまた浅く早く息を紡ぐ。
そうして三分程経っただろうか。
ヒカルはゆっくりと身を起こすと、アキラに問いかけた。
「今、何分?」
「え……あ、ああ……」
一瞬虚を衝かれるも、対局の事を思い出し慌てて携帯の画面を見る。
開始から既に結構な時間が経過していた。
不戦敗は免れそうだが、持ち時間は大きく減少している。
だが、ヒカルなら時間に追われてヨミ違えると云う事もないだろう。
脱ぎ散らかした衣服を集め、もそもそと着替えはじめるヒカルを、アキラはただじっと見ていた。
「……何見てンだよ」
ばつが悪そうに頬を染めながら眉を顰めるヒカルに、アキラは内心ホッとした。
────良かった、いつもの進藤だ。
和らいだ心に余裕が出てきて、アキラはヒカルの傍に寄ると耳許で囁いた。
「別に。なんでもない。……それより着替え、手伝おうか?」
ヒカルの顔がカッと朱に染まる。
「オマエなぁっ、性格悪すぎ……っ」
そりゃ、さっきのは感謝してるけどさ、と口先を尖らせて小さく愚痴るように零すヒカルが可愛くて。
「ごめん」
頬にさっと軽く口付けた。
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