ルームサービス 30 - 31


(30)
「終わった?」
「うん」
手をアキラの方へさしだした。
「起こして」
アキラは言われた通りにヒカルの体を起こした。
起き上がったヒカルがアキラの裸の胸に頭をすりつけてくる。
自然にアキラはヒカルの背に手を回した。
浴室の扉が開く音がした。
(犬か・・)
せっかくいい雰囲気なのに、と残念に思ったとき。
ヒカルの体がふいに硬直した。
「やだ・・・・」
「・・・進藤・・・・?」
「や・・・だ、塔矢」
振り返った塔矢は、ヒカルの見開かれた視線の先に、犬の両手が
あるのに気が付いた。
手袋をしている。
(ああ、フィスト用って言っていたなあの手袋)
アキラは納得した。
そもそもアキラは、フィストが何を指すのかわかってなかった。
手紙の内容にフィストとあり、グッズの広告にフィスト用
ラバー手袋と書いてあったから注文してみたのだ。
持ってきた配達人の説明にさすがにアキラも驚き、本当に
使おうと言う気はさすがになかったのだが。
ヒカルはは怯えた口調で、アキラに哀願した。
「や・・め・・てくれ・・よ。頼むから・・死んじゃう・・よ」
「・・時間をかければ大丈夫だって言ってたけど・・」


(31)
ひくりとヒカルの体が硬直し、大きな瞳が、アキラを信じられないものの
ように見つめた。涙のつぶが見る見る盛り上がる。
「いや・・・だ。たの・・・む」
いやいやをするように首をふり、泣き出した。
「進藤・・・」
さすがにアキラも残酷すぎたかと思った。
だけど、冗談だという言葉が湧いてこない。
なんともいえず、嗚咽するヒカルをみていた
突然ヒカルが言い出した。
「塔・矢・・・はオレを憎んでるのか・・・・」
「憎んでる?なんで・・・・」
アキラは聞いた。憎んでいるなどと感じたことはない。
「だって・・・」
アキラはヒカルの言葉を待つ。
「だって・・・・何・・・?キミを憎む理由なんて何もない。キミに
ボクが負けたとしても・・・」
怒っているのかと聞かれれば納得できるが、憎んでいるという言い方が
不思議に思えた。
「でも・・・だって・・・・」
何か言葉を探すように・・・ヒカルがあえぐ。
「だって・・・・塔矢は・・・・ほん・・・とう・・は・・・」
さまよった視線がアキラの強い注視に出会いおびえたようにとまった。
なにか言いかけていた唇を閉じ、下を向いた。
・・・・・・・



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