トーヤアキラの一日 31


(31)
ファーストキス以来、お互いに忙しくて中々会う機会が無かった二人だが、電話で頻繁に
連絡を取りあう事で、より理解を深め合っていた。碁の話は以前と変わらず夢中になって
していたが、今までと違うのは、プライベートな話もするようになった事だ。
本因坊リーグ第5戦、緒方精次十段・碁聖との対局を翌日に控えた前夜も二人は電話で
話をした。
「ところで、塔矢先生は戻って来てるんだろ?」
「数日家に居ただけで、また韓国に旅立ったよ」
「うわー、忙しいな。おばさんも一緒なんだろ?お前ちゃんと食べてるのかよ」
「大丈夫だよ。それよりキミも風邪気味だって言ってたけど、大丈夫なのか?」
「もう全然平気さ。明日はお互い大事な対局だから頑張ろうぜ」
「そうだね。終わったらまた連絡するよ」
「ああ」

アキラが検討や取材を終えてから、今日の対局結果を確認すると、ヒカルも森下九段に
負けていた事がわかった。
───進藤・・・・・キミに会いたい
そう思いながらエレベーターを降りて、棋院の出口に向かって歩いていると、
「塔矢、お互い残念だったな」
電話からではない生のヒカルの声が、横から聞こえてきた。
「進藤・・・・・、待っていてくれたんだね」
アキラはそう言ってヒカルを見詰める。
───会いたかった、会いたかった、キミに会いたかった。
視線はそう語りかけていた。



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