弄ばれたい御衣黄桜下の翻弄覗き夜話 31


(31)
完全に毒気を抜かれて、門脇は疲ればかりが残る体を持ち上げた。
ヒカルも、芝生についた手で体を支えて立ち上がった。だいぶ腰のあたりが辛そうで
はあったが。
「風呂入りてぇ」
と、ヒカルが独り言を漏らすのが聞こえる。
時計を見ると午前二時が近い。
当然だが、電車はもうない。タクシーだ。
「行くか」
足を踏みだした門脇を追い越すように、ヒカルも歩き出す。そして、前にまわると
体ごと振り返った。
「あ、そうだ、門脇さん」
「なんだよ」
「遅くなったのは門脇さんのせいなんだから、タクシー代出してよね」
そう言って笑顔を浮かべるヒカルに、門脇は心の中で、嘆息する。
きっと、俺はこいつに、こうして一生弄ばれる運命なんだろう――と。




               『弄ばれたい御衣黄桜下の翻弄覗き夜話』――了――



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