落日 31


(31)
弄り、追い詰め、ついには許しを請うように涙を流す彼の訴えを退け、乱暴に彼の身体を揺さぶる。
がくがくと震える彼の肩を掴まえて、怯えた目で見る彼を睨みつけて言った。
「最低だ、おまえ。」
怒りをそのままぶつけるように、肩をきつく握りこんだまま、突き上げる。
「誰の事も好きじゃないくせに、どうでもいいくせに、俺や、伊角さんをもてあそんで、」
到達の予感に震える彼を戒めるように、根元をぎゅっと握り締めると、彼はひっと細い悲鳴を上げる。
紅潮した顔からは汗が吹きだし、苦痛から逃れるように身体を捩らせる。
「ヒカル……ッ!」
それでも尚、彼を愛しいと思うのをやめられない。ぎゅっときつく握りこんでから、彼の到達を戒めて
いた手を放すと、彼は細く長い悲鳴を上げ、痙攣しながら白い飛沫を撒き散らした。同時にきつく締
め付けられた自分自身も彼の奥に断続的に熱い欲望を放った。

弾けるような意識の底で、このまま彼と一つになったまま死んでしまってもいい、そんな風に思った
のに、やがて意識は快楽の頂点から地上へと引き戻される。彼の身体はまだぴくぴくと小さな痙攣
を繰り返し、けれどその意識は未だ失われたままだった。顔に残る苦悶の表情に胸が痛む。
「…俺は悪くねぇ。おまえが、おまえが悪いんだ。」
けれど責め詰ったところで、応えは無い。
自分ひとりがここへ帰ってきてしまったのが悲しくて、細い、もはや抱き返す力も残っていない身体
をきつく抱きしめた。
離したくない。このまま彼を攫っていってしまいたい。
誰の目にも触れぬよう、屋敷の奥深くに幽閉して、一日中、ひと時も離れずに彼を抱いていたい。

それでも。
それでもやはり、彼は自分の腕の中であの人の名を呼ぶのだろうか。
彼を置いて逝ってしまったあの美しい人の名を。



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