失着点・展界編 31
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伊角はヒカルの母親と共にヒカルの部屋の前まで早々と上げられていた。
コンコンと遠慮がちにドアがノックされ、伊角の声がした。
「…進藤、…オレだけど…。」
「伊角さん!?」
ヒカルは直ぐにドアを開けた。伊角はヒカルの顔を見て、思ったより元気
そうな様子に心の底からホッとしたような表情をした。
「すぐ飲み物お持ちしますから。」
ヒカルの母親はニコニコしながら階下へ降りて行った。その様子に、伊角は
昨日あの状態で別れた後のヒカルがどうなって今に至るのかまるで見当が
つかないようだった。
「…進藤…お前、…体の具合は…」
「あ、う、うん、まあ…何とかね。」
少し沈黙の間があった。ヒカルの母親がすぐに紅茶を入れて運んで来た。
「ヒカル、あなたお腹こわしているから温かいものにしたわよ。伊角さんも
ゆうべ緒方先生のところの検討会に参加していらしたの?」
伊角がびっくりして一瞬口を開きかけ、ヒカルを見た。ヒカルも焦った。
「う、うん!伊角さんはちょこっと顔出しただけ。ねっ。」
「…そっ、そうなんです。」
「プロの世界って本当にいまだによく分からなくて…。塔矢先生のところの
息子さんや、伊角さんのようにしっかりしていればいいのでしょうけれど、
うちのヒカルはまだまだ子供で、何か落ち着きがなくって…。いろいろ
御迷惑かけるかもしれませんがよろしくお願いしますね。」
「プロの世界は進藤君の方が先輩です。こちらこそ宜しくお願いします。」
「和谷みたいな奴だっているじゃん。いいから母さんは早く出て行ってよ。」
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