失着点・境界編 31 - 32
(31)
本当はほとんど動かなくても十分にヒカルは感じていた。
アキラに口で吸われるのとは…もちろんそれも凄く気持ち良いのだが、
とにかくまるで違った。腰から下をすっぽりどこかに持っていかれたような、
説明出来ない感覚だった。そしてこれ以上動くとアキラを壊してしまいそう
だった。だが、最奥までアキラの中に入った時にヒカルのわずかに
残されていた理性は吹き飛んだ。
ヒカルは無我夢中だった。
覚えているのは、途中何度かアキラが暴れて爪を立てられた事。
その度にアキラを押さえ付け、アキラの中で動き続けた。
何度アキラの中に射精したのかはわからない。アキラは一度失禁をした。
シーツをバスルームで洗い流し、ベッドのマットレスが乾くまで毛布に
くるまり部屋の片隅の床で疲れて眠っているアキラの髪をそっと撫でる。
初めて出会った時から印象的だったその黒髪にキスをする。
涙で頬に張り付いている長い睫毛にもキスをする。
囲碁の世界で成長して行くためにアキラと出会った。そう思っていた。
でも今は、アキラと出会うために囲碁の世界に入り込んだ。
そうとしか思えなかった。
アキラの中で体が溶け合うように感じた時二人の間に境界線はなかった。
境界線があるとしたら、二人とそれ以外の世界の間なのだ。
これからも二人がここで過ごす時間と、この部屋を一歩外へ出た空間の間だ。
「…オレのものだ…。」
引き返せない日常を写した瞳でヒカルはつぶやく。
今は安らかな寝息をたてて眠るアキラの寝顔が世界の何よりも愛おしかった。
〈失着点・境界編 終〉
(32)
一週間後、ヒカルはアキラの体調を気にしつつ久々にアキラのアパートを
訪ねた。
「進藤…!そろそろ来てくれる頃だと思ったよ。上がって。」
いつもとまったく変わらない様子で出迎えてくれたアキラにホッとする。
あの後、眠っているアキラをそのままにしてヒカルはここを出たのだ。
特に電話もしなかったし、碁会所を訪ねたりもしなかった。
自分達の間に、そういうものは必要無い気がした。
ごく軽くキスを交わしヒカルは靴を脱いで和室に入る。
ふと、部屋の奥を見る。
ベッドのシーツにビニール質のものが敷いてあった。
「…」
嫌な予感がしてヒカルが振り返るとアキラがミニスポットライトや
何やら怪し気な医療器具らしきものを持ってニコニコしながら立っていた。
ヒカルの背筋にサーッと冷たいものが流れた。
「…今度は君の番だよ。進藤。」
前髪の間でアキラの目がギラリと光った。
ヒカルが自分がアキラにした事をきっちりそのまま時間的・量的に倍にして
(行為によっては3倍だったりアレンジされたりして)ヤリ返されたのは
いうまでもなかた。…合掌。
〈失着点・境界編 完〉
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