光彩 31 - 33


(31)
ヒカルはアキラを追って出ていった。
緒方は、無言でそれを見送った。
出ていく前、ヒカルは何度も、緒方を気遣わしげに振り返った。

部屋の中に静寂が訪れた。

アキラを滅茶苦茶に傷つけた。
望み通りだ。後悔する必要なんかない。
ヒカルの心配など見当違いだ。
あいつは俺を誤解している。

アキラの切れ長の瞳と、ヒカルの黒い大きな瞳が交互に浮かんだ。

緒方は立ち上がって、机の引き出しをあけた。
アキラが返してきた合い鍵をとりだす。
手の中のそれをしばらく眺めていたが、そのままゴミ箱へ放り投げた。


(32)
ヒカルはアキラのアパートに行った。
部屋の灯りは消えている。
帰っていないのかもしれない。
インターフォンを押してみた。返事はなかった。
そっとノブに手をかけた。
開いている。

暗い部屋の中へ呼びかけた。
「塔矢ぁ? いないのか?」
アキラを呼びながら、中へ入っていく。

いきなり後ろから抱きつかれた。
そのまま、引き倒される。
腕を押さえつけられ、床に縫い止められた。
「塔矢・・・。」
真上から自分を見つめる人物に声をかけた。
暗くて表情は見えない。
その顔が近づいてきた。
さらさらとした髪が、ヒカルの頬にかかる。
かすめるようにキスをされた。
ヒカルは目を閉じて力を抜いた。
もう一度、今度は深く唇を重ねてきた。
息苦しい。
頭が変になりそうだった。

「どうして抵抗しないんだ?」
唇を離して、塔矢がきつい口調で聞いてきた。
暗闇の中で、自分を睨んでいるようだ。
「緒方さんとしちゃったから、お情けでボクともしてくれるの?」
「!!」
誤解だ!緒方先生は何もしていない。だって先生は・・・。
誤解を解こうと開きかけた口を、再び塞がれた。
噛みつかれたと思った。
舌が入ってくる。
アキラの舌で口の中を愛撫された。
たどたどしくヒカルも応える。

どうすればアキラを慰められるのか、ヒカルにはわからなかった。
ただ、アキラの望むままに従おうと決めていた。
アキラが自分を好きにしたいというのなら、それでもかまわない。
塔矢を離したくない。絶対に。

アキラの思いに懸命に応えた。
体がふるえるのはしょうがない。
ヒカルにとっては初めてのことなのだから。

アキラは掴んでいた腕を離し、ヒカルの唇を解放した。
ヒカルの前髪を梳きながら、呟いた。
「ごめん・・・。進藤。ごめん。」
アキラは、何度もごめんと繰り返す。
ヒカルの頬に雨の雫があたった。


(33)
これは八つ当たりだ。
ヒカルには、何の責任もないのだ。

緒方の言葉を信じたわけではなかった。
ただ、緒方との関係を知られたくなかった。
ヒカルに自分の浅ましさを知られたくなかった。
ヒカルの瞳には、きれいな自分を映したかった。
それは、もう叶わない。

それでも、ヒカルが欲しかった。
どんな方法でもいいと思った。
そのために、ヒカルを侮辱し、辱めたのだ。
ボクは卑怯だ・・・!
緒方さんの言う通り、進藤を愛する資格などない。

アキラは、ヒカルの傍らに力無く膝をついた。
ヒカルもゆっくりと起きあがり、アキラの前に座り直した。

暗い部屋の中でさえ、アキラはヒカルと正面から、
向かいあうことができなかった。
アキラは項垂れた。
ヒカルの視線が痛い。

ヒカルの指がアキラの頬にふれ、涙を拭った。
顔が近づき、アキラにキスをした。
ふれるだけの幼いキスだった。
・・・!驚いた。
進藤はどういうつもりなのだろう。
同情しているのだろうか。それとも・・・。
アキラはヒカルの真意を測りかねた。
暗闇の中、ヒカルの顔は見えない。
しかし、それが同情だとしても、アキラはヒカルが欲しかった。



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