クローバー公園(仮) 31 - 35
(31)
ヒカルの口からは考えられないような事が、どんどんこぼれて出てくる。
信じられない状況に、思わず気が弱くなった。ヒカルの言葉は続く。
「皆に見せてさ、オマエはオレのもんだって、オレとヤってこんなに感じまくって
よがりまくってますって、見せといたほうがさ、他のヤツから変な気
持たれなくていいかもしれねーし」
これ以上、なに話されても面倒だ。ヒカルはアキラの身体を深く折ると
唇を塞いで言葉を封じ、感覚の海に放り込んだ。
ヒカルの大きさになじんできたことと、中に注がれた精液が潤滑剤代わりとなって
動きが大分楽になり、ヒカルが動くたび、じゅぷっ、じゅぷっと湿った音を立てて
結合部から精液が溢れ、アキラの尻を伝う。
その卑猥な感触に、音に、そして何より、誰かに見られるかもしれない場所での行為に
―しかもヒカルは他人に見せる事もやぶさかではない、と言いきっている―
昂ぶっていく自分を押えることはもうできなかった。
両手を伸ばしてヒカルに縋り付き、アキラも自ら動いて求めた。
「んんっ………ん、んんぅ、………んっ!んーっ!」
と、傍らの電話機がけたたましく家人を呼ぶ音が、空気を切り裂いた。
ヒカルは構わずにアキラを楽しんでいたが、アキラはヒカルから顔を逃がした。
「………電話………多分…、おかあさん………出させて…」
(32)
電話が鳴ったはじめのほんの一瞬だけ動きを止めたあと、
ヒカルが行為を中断する気配はなかった。
「進藤!おねがいだから…!出ないと………また…かかって、くるから……
だから、おねがい…、……進藤!」
アキラの懇願は、最後は悲鳴に近かった。
もしアキラの言葉が本当で、何度もかかってきても鬱陶しい。
ヒカルはしぶしぶとアキラを放した。
引き抜かれる瞬間に走る甘美な痺れを惜しみ、同時に
中から溢れるどろりという感触を少し嫌悪しながら
体が思うように動かないことに気がついたアキラは
ごろんとうつ伏せに転がって、重い身体で這いずり電話へ向かった。
アキラを放したヒカルは、とりあえずまだ着けていた靴下を
靴と一緒に脱ぎ去り、膝にたまったジーンズも下着も脱ぎ捨てた。
自分がこんなに飢えていると思わなかった。だけどまだまだ足りそうにない。
乱れる呼吸の中に溜息を紛れさせ、のそのそと動くアキラに目をやった。
こちらに尻を向け、だらしなく開いた後門が何か別の生き物のように蠢きながら
溢れさせた精液で内腿をてらてらと光らせている。
───これを黙って見てろっていうのかよ?
(33)
不意に後ろから腰を捕まれ、アキラはほんの少し届かなかった。
「やっぱ、やーめたぁ〜」
言いざま、ヒカルはアキラを貫いた。
「えっ?なに?やっ!やだぁ…!…ぁあああっ!」
当の電話機は合成音声が冷たく電話を取り、伝言を受け始める。
「もしもし、アキラさん?もしもし?……あら…、お風呂かしら…?」
のんびりとした口調の母の声が玄関に響く。
意味もないことをつらつらとしゃべっているが、どうやらそれは
アキラが遅れて電話を受けることを待っている様子だった。
「しんどぉっ!……はぁぁん!ああんっ!や、あ、あ、あああっ!」
呑気な母の声が、なぜか余計にアキラの中の火を煽る。
アキラの変化に気づいたヒカルは、わざと音を立てるように動いた。
肉を打つ乾いた音と、ぐちゅぐちゅ言う湿った音と、電話機から聞こえる
平和過ぎる声がない混ぜになってアキラの中で響き、掻き立てている。
もう何が何だか分からない。アキラは必死で快楽を追い、激しく身を捩らせた。
「…アキラさん、もしかしてまだ帰っていらっしゃらないのかしら?
随分と遅い時間だと思うけれど…」
ヒカルはアキラに覆いかぶさり、あまりに激しく身体を揺するアキラの腰を
片腕でしっかりと固定して、もう片手でアキラの前を撫で始めた。
それは既に自身の先走りで濡れそぼっていて、扱く手も滑らかに動く。
「…あああ、いいぃっ!はぁあん、進藤、イクぅ、イキそう……ダメぇ…」
(34)
「それじゃぁ、アキラさん?また後でかけ直しますけど………」
「やああああああああああああっっっ!!!」
電話が切れるか切れないかのうちに、アキラは絶叫してヒカルの手の中に
欲望を吐き出し、同時に菊門も激しく収縮してヒカルの中身を絞り取った。
ふたりはごとごとと崩れ落ちて、暫しただの肉塊でいた。
「進藤……ひどいよ…どうして…?」
先に気がついたアキラは、まだ堕ちているヒカルの髪をそっと撫でながら
小声でなじった。
ボクは別に何もしてない…誘ったって、何だ?
ヒカルの言葉の意味が全く分からない。言葉の真意が全く見えない。
―――あ、熱…!
慌ててヒカルの額に手を当てると、別に熱くも何ともない。
そういえば、こんな場所で、何も身に付けず何も掛けていないにも
かかわらず、ヒカルは寒がることもなく、ぐっすりと眠りこけていた。
ふぅ、とひと息ついて、もう一度ヒカルを見つめる。
あの熱は何だったんだろう?酷く苦しそうにしていたのに…
再び電話が鳴った。咄嗟に、ヒカルを起こしたくないと思ったアキラは
受話器に飛びついた。
(35)
耳障りな電子音に叩き起こされ、ヒカルはぼんやり周りを見回していた。
アキラの落ち着いた声がする。誰かと話しているようだ。
声のするほうに視線を向けると、アキラがこちらに背中を向けて電話中だ。
相手は母親のようだ。アキラの言った通り、またかかってきたんだなと思った。
剥き出しの背中がこころなしか赤いのは、今し方の情事のせいだろう。
床の上で無理な体制をとらせてしまった。痛むかな。
身体を起こしながら、その時のアキラを思い出す。
多分、母親の声を聞いてからだ。いつに無いほど激しく乱れていた。
ヒカルは起き上がり、アキラを後ろから軽く抱き締めると向きを変えさせて
壁に背中を押し付け、そっと、深くアキラに口付けた。
それは、出掛ける前のと同じような、本当に柔らかなキスだった。
舌の絡まる音が、唇を吸う音が、優しくアキラを溶かしていく。
不意の出来事に驚いたアキラだったが、受話器の向こうに悟られてはいけない一心で
音が漏れないよう、受話器を押さえてヒカルに応えた。
ヒカルは片手をアキラの胸の上で遊ばせながら、ゆっくりと唇で首筋をなぞっていく。
声が出そうで、下唇を噛んで堪えたが、このままでは相槌すら打つことが出来ない。
「それで―――アキラさん?聞いていらっしゃる?」
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